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怪異十三(三津田信三〔編〕/原書房)~読書メモ(014)

投稿日:2018年8月30日 更新日:

  • 読書メモ(14)
  • 三津田信三自身が「本当にぞっとした作品」を選ぶ
  • 直球の怪談といった印象
  • おススメ度:★★★★☆

『怪異十三』は、ホラー作家の三津田信三(著者の作品で本サイトで紹介した本:「凶宅」「禍家」「厭魅の如き憑くもの」)が国内外の怪奇短編を13編選び、そこに編者自身の短編を合わせたものになっている。国内の短編に関しては全くの未読作品ばかりだった(たぶん)ので、おもしろかった。国内外作品のいずれもが、どちらかというと得体の知れなさや、直球の怪談風のものを扱ったホラーが多い印象。編者も言っているが、あまりホラー小説を読まないという人向けのアンソロジーかなぁといったかんじ。テレビなどで放送している、実際にあった怖い話的なものが好きであれば楽しめるかと思う。
では、以下にそのラインナップを。

(国内編)
・「死神」…南部修太郎
・「妖異編二-寺町の竹藪」…岡本綺堂
・「竈の中の顔」…田中貢太郎
・「逗子物語」…橘外男
・「佐門谷」…丘美丈二郎
・「蟇(ひき)」…宇江敏勝
・「茂助に関わる談合」…菊池秀行

(海外編)
・「ねじけジャネット」…ロバート・ルイス・スティーヴンスン
・「笛吹かば現れん」…モンタギュウ・ロウズ・ジェイムズ
・「八番目の明かり」…ロイ・ヴィカーズ
・「アメリカからきた紳士」…マイクル・アレン
・「旅行時計」…ウィリアム・フライヤー・ハーヴィー
・「魅入られて」…イーディス・ウォートン

国内のものは、怪談といってもいいかと思われる。
「寺町の竹藪」と「逗子物語」は、どこか懐かしい感じもある怖さ。実話怪談的なものであり、読む者をその現場へ誘うような不思議な力がある。
「竈の中の顔」や「蟇」は、どちらも昔話(民話)的なものを感じさせ、得体の知れなさを強く覚える。
「佐門谷」は、ミステリ的なオチがついてなかなかおもしろい。

海外編のものは、編者自身の好みがよくわかる直球のホラーといったかんじ。イギリスの作家が多いのは、かの国が怪談好きというか、編者好みのホラーがイギリスに多いせいだろうか。

【悪魔とか、ホラーとテラーについて】

平山夢明『恐怖の構造』(幻冬舎新書(Ama))を読んだ。てっきり、『恐怖の哲学(Ama)』(戸田山和久・著)みたいな内容をホラー作家が噛み砕いて解説してくれるものだとばかり思っていたが、早とちりだった。これは完全にタイトル倒れというかタイトル詐欺(半分言いがかり)だった。内容的には単なるエッセイ。誰がこんなタイトルをつけたのか分からないが(まあ出版社か)、こんな雑駁とした「持論」に「恐怖の構造」などといったタイトルをつけるなんて……。まあ、確かめもせずに購入した私が悪いのだが、このタイトルはいつ付けたのだろうか。編集が、この内容でこのタイトルを後でつけたのなら一体どういうつもりなのだろう。ホラー(怖い)映画とホラー小説とその他について語ったエッセイです、みたいなタイトルをつければよかったのに(愚痴)。

まあ、文句ばかり言っていてもしょうがない。おもしろく(?)読んでみよう。三津田信三は『怪異十三』の解説で、西洋の怪奇ものに出てくる「悪魔」という概念の怖さが、非-キリスト教圏の者には十全に楽しめないことに関して語っている。平山も『恐怖の構造』でそのことを単なる「文化的恐怖」とだけで片付けている。たしかに、中学生まで日曜学校で教会に通い、一応洗礼まで受けた身の私も(しかも聖体拝領まで)、「悪魔」の文字を見ても、「悪魔」が登場する小説や映画にも身がよじれるほどの恐怖は、残念ながら覚えない。まあ、それは私が熱心な信仰心を持っていなかったからかもしれないが、それよりも、私の世代では、学校で蔓延していた都市伝説的な噂のほうが怖かった。その後、「悪魔」は真・女神転生シリーズなどで単なるデジタル的な消費物と堕して(?)しまった。このあたりのことについては、本などでも読んで考えてみよう。

そもそもキリスト教圏(西洋圏)において、「悪魔」がどのように恐怖されているのか、それを実感的にはわからないので、知らない。もちろんその概念は歴史的な変遷を経て培われてきたものだろう。また、聖書に関する本を読んでも「悪魔」についてはピンとこない。まあ、ちょっと考えただけではわからないし、考えたこともないので、いつか考えてみよう(考えるだけ)。

ただ、日本人が全く「悪魔」を怖がらないかというとそうでもないと思う。要は怖がらせかたにもよるか。例えば、森の奥で語りあう何者かの声を聞いておそるおそるそこを覗いたらサバトが行われていたとしたら戦慄するだろう。しかし、それだと、「悪魔」それ自体を怖がるのとは違ってくるだろう。『怪異十三』では、三津田信三の短編も載っていて、その内容とは日本に残る悪魔信仰の一端に触れてしまう女性をめぐる怪異譚といったものだが、これがあまり怖くない。やはり、日本人には「悪魔」を料理し味わうのは難しいのか。ちなみに、私が小学生の時にはじめて「悪魔」は怖いと思ったのは、『ゴッドサイダー』という漫画を読んだ時だ。これは、日本人の文化を考えると興味深いかも。

ところで、「怖い」ということばを何気なく使っていたが、最近ちまちま読んでいる『ゴシックの炎』(デヴェンドラ・P・ヴァーマ、松柏社(Ama))という本に次のような文章があり、かすかに蒙を啓かれた思いがした。

「『恐怖(テラー)』と『戦慄(ホラー)』の違いは、悍しい不安と吐き気を催す実感の違いである。つまり、死の臭いと死体に躓くこととの違いである」(『ゴシックの炎』p210)

「恐怖は、精神的で心因性の不安の名状しがたい雰囲気、つまり彼方の世界に対する、ある種の迷信的な恐れを創出する。戦慄は、不気味なものをより剥き出しの形で提示する。つまり、精神の陰鬱や絶望という遙かに恐ろしい背景のもとで、目に見える恐ろしく悍しいものを忠実に描写するのである。陰鬱なものや邪悪なものを凝視することで、戦慄は紛れもない恐れの感覚や不快感に訴えかけ、そして超自然と肌で直に接触させることで神経を切り裂くのである」(同前p210-211)

「ホラー(戦慄)」という言葉を何も気にせずに用いていたが、「テラー(恐怖)」と使い分けることで何やら恐れの感情における位置には差異がうまれるのだろう。とはいえ、現在はだいたいジャンルとしてはホラーに統一されとるような気がするが。ここでいう「テラー」は、ラヴクラフト的に言うと「心騒がせられる」状態のことだろうか。上記の例でいうと、「森の奥で聞いた何者かの声」に恐怖するのがテラーで、その現場(サバト)を目撃して戦慄するのがホラーということなのだろうか。なかなか興味深いので折に触れてまた考えてみましょ。

【その他について】

『怪異十三』に載っている「茂助に関わる談合」は、時代劇怪談といったもので、なかなかおもしろい。『恐怖の構造』では、現代人と江戸時代の人間とでは、様々な価値観の違いにより死者(という有りよう)の捉え方が変わってくるので、時代劇的な怪談を書くときにはその辺りが注意点だということのよう。こういうところは、日本人とそうでない人たちとの怪奇に対する捉え方の相違とも似ていて、興味深い。

平山夢明の作品はひとつしか読んだことがないので、どのような人物か知らなかった。『恐怖の構造』では、著者自身のしでかした様々な悪ふざけが書かれていて、それが私には怖かった。ここに書かれた著者の悪質ともいえるおふざけについて、巻末の対談で春日武彦が精神分析的によみとっている。それを読むに、どう考えても一番怖いのは平山本人だろう。平山がなした「実録怪談」的な所業の数々がどこまで本気か分からないが、まあなるべく関わりあいにはなりたくない人物と思わせてくれる。その平山を春日武彦が大雑把なかんじで心理構造的に分析していて、そういう意味で、この本には著者から受ける「恐怖の構造」が垣間見えるかもしれない。

(成城比丘太郎)


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