- 「伝説のケンカ」
- ルソーとヒュームのどちらに共感するか
- 笑えます
- オモシロ度:★★★★☆
さて、先日、イギリスはEUから離脱した(らしい)。とはいえ、移行期間はまだあるし、その期間が延長されないとはいえないし、期限が終了して何年かしてまたEUに戻ってこないとも限らない。まあ、個人的に直接的な関係はないのでどうでもいいんだけど、そのニュースをちょっと見ていて、この本のことを思い出した。
本書の内容としては、「十八世紀の大思想家による伝説のケンカ」を、ふたりの往復書簡をもとに、その「ケンカ」の内容を見ていく。まあ、このケンカはルソーの人格的問題によるところが大きいと思う。イギリス側のヒュームではなくて、大陸からきたルソーからふっかけたと思われるので、ルソー個人の問題なのだろう。でも、ルソーの言い分も理解できる現代人たる自分もいる。
「狂気」のルソーと、「善良な悪」のヒュームとの、ちょっとした(でもルソーにとっては重要な)行き違いによる、仲違いのエピソード。大陸からイギリスへと逃れてきたルソーは、恩人であるヒュームに被害妄想的な悪意をかぎとる。穏和で理性的であろうとするヒュームには、ルソーのその「良心」に訴えかける「狂気」の言い分がわからない。そういうところから起こった、笑える悲劇かもしれない。
ルソーがヒュームに、「包み隠さず」にものごとを述べることを望むことから起こった「ケンカ」です。そしてその書簡を公刊したヒューム。だからこそ、こうして現在の読者も客観的(第三者的)に楽しめるわけです。ルソーの「包み隠さず明るみに出す」という態度は、現在ではふつうにみられるとしたら、ルソーのこだわったものというのは現在ではふつうに通用するかもしれません。そういった傾向は、現在のSNSとかにも見られるんだけども、まあ個人が楽しめばそういった自分語り(?)も大いに結構なのでしょう。私も、もうしばらくこの個人語りブログを続けるつもりです。しかし個人的に気になるのは、そういった他人の自分語り的半生を募集して、なにか自費出版的なものをもちかける勢力がいることか。あくまで個人的には、政治家でもない限り、人生に関わる自らの重大な個人情報を、商魂たくましい赤の他人にあずけるのには躊躇ってしまうんだが。
さて、話が変な方向にいってしまいそうですが、結論を言うと、面白く読める本。こういう本が、昭和二十四年に出版されていたというのがこれまたおもしろい。イギリス離脱問題とはまったく関係ないですけど。
(成城比丘太郎)