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★★★★☆ コラム

海外文学(小説)おすすめ50作品+α(成城比丘太郎のコラム-02)

投稿日:2018年5月2日 更新日:

  • 非-専門家がおすすめする海外文学(小説)。
  • 私の好きな本、もう一度読みたい本を中心に。
  • 一応ホラー的な、ファンタジー的なものもあります(暗い本も)。
  • おススメ度:★★★★☆

※編者注 一応全ての作品にAmazonのリンクを貼りました。興味のある方は(Ama)リンクをクリックして下さい。

【はじめに】
先日、人づてに「ネットに現代海外文学のすごいリストがある」と聞き、実際にそのブログを覗いたところ確かにすごかった。私など五分の一も読んだだろうかというラインナップだった。気になったので、海外文学(小説)をおすすめしている人がどれだけいるか検索したところ、出るわ、出るわ、色んな人が独自の視点で自分のおすすめ海外作品を紹介していました(見させてもらったブロガーのみなさん、ここでお礼申し上げます)。それらを見てわかったのは、海外文学好きは多いし、その人たちはより多くの人たちに海外作品を読んでもらいたいという想いがあるということ(おそらく)。もちろん私もそうなので、すぐに、自分ならどんな本をお薦めするかを頭の中で挙げました。しかし、名作といわれるものをほとんど読んでいないし、選出結果は他人と似たようなものになりました。そこで、ふつうに選んでも面白くないと、いくつか選考基準を設けましたので、たいしたものではないですが、書きだしてみました。

【選考基準】
(1)まず文庫で読めること(一部除く)。なおかつ、ネット書店や、書店で新品が購入できるものに限る。
(2)私がもう一度読んでみて、このブログに感想を書いてみたいもの。
(3)一応怖いと思われる本もいくつかあげること。
(4)とにかく読みやすい作品を中心に(一部除く)。
といった感じで選んでみましたが、文庫を中心に選んだので、岩波と光文社ばかりになりました……。それに地域的にも偏りが……。
先日NHKにて放送された『プロフェッショナル仕事の流儀』という番組で、「一万円選書」で有名な「いわた書店」の岩田さんが、「暗い本は薦めたくない。できるだけ明るい本を読んでもらいたい」というようなことを言っていましたが、私の選ぶ本は、それとは逆で、暗い本が多いかもしれません。でも暗さも人生の味付けだと思えば、許容できるのではと。
海外文学を翻訳で読むというのは、日本語使用者が書く日本語作品を読むときにはあまり気付かない、読むこと自体というものが読み手に立ちあがってくることがあって、その辺りがひとつの楽しみではないかと思うときがあります。では、以下にお薦めのリストを挙げますので、海外文学(小説)をこれから読んでみたいという人の参考になれば幸いです。

【おすすめ作品50】
※番号は、順位ではありません。
《1》イタロ・カルヴィーノ『マルコヴァルドさんの四季』(関口英子・訳、岩波少年文庫)(Ama)
〔脳内で、「カルヴィーノで一番読みやすいのは何か会議」を開催したところ、過半数でこれになりました。大都会で家族を養うために奮闘するおじさんの姿がユーモラスに描かれます。ちょっとした怖さも秘めていたように記憶しています。このリストの中でこれさえ読んでもらえれば、以て瞑すべし、といったところ〕

《2》ロード・ダンセイニ『世界の涯の物語』(河出文庫)(Ama)
〔現代ファンタジーの「原点」。アマゾンで、現在(2018年4月)新品が購入できるのは、これと『最後の夢の物語』だけのよう。翻訳に関して難があるということですが、私は気付かなかった…。ちなみに私が好きな作品は「ヤン川を下る長閑な日々」(『夢見る人の物語』)です。〕

《3》『E・A・ポー』(集英社文庫ヘリテージシリーズ)(Ama)
(怪奇、奇想、これらが好きな方には外せない作家の一人が、ポー(ポオ)です。この文庫じゃなくてもいいですが。)

《4》スタニスワフ・レム『ソラリス』(沼野充義・訳、ハヤカワ文庫SF)(Ama)
〔定番ですが。文学的にも読めると思う。この新訳は読んだことがないので、いずれ読んでみたい〕

《5》ブラックウッド『人間和声』(南條竹則・訳、光文社古典新訳文庫)(Ama)
〔光文社からは短編集もでていますが、これは、なんといっても初読時の衝撃がすごかった。ホラーの域を超えてる感じがした。再読したいが、もしかしたら拍子抜けするかもと思うとなかなか読めない。〕

《6》ソポクレス『オイディプス王』(河合祥一郎・訳、光文社古典新訳文庫)(Ama)
〔(2017年11月15日紹介)まあ、すごい宿命の力ですよね〕

《7》ゴーゴリ『狂人日記-他二篇』(横田瑞穂・訳、岩波文庫)(Ama)
〔妄想日記といったところ。現代だと、他人のブログ日記を読んでいたら、書かれていることが変になって、それを楽しむような感じになるのでしょうか。でも、「狂人日記」自体は短いですが〕

《8》ドストエフスキー『鰐-ユーモア小説集』(講談社文芸文庫)(Ama)
〔ドストの長編はちょっと、という方にお薦めのユーモア小説集。ちなみに私がひそかに愛する短編は、『白夜』です。〕

《9》トルストイ『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』(望月哲男・訳、光文社古典新訳文庫)(Ama)
〔トルストイの長編はちょっと、という方に。ちなみに私は、まだトルストイの長編をひとつも読んだことがありません。もし長生きしていたら読むつもりです〕

《10》ウラジーミル・ソローキン『青い脂』(望月哲男・訳、河出文庫)(Ama)
〔この文庫はまだ読んでいません。そのうち読みたい候補ということで〕

《11》プーシキン『スペードのクイーン/ベールキン物語』(望月哲男・訳、光文社古典新訳文庫)(Ama)
〔(2017年5月3日紹介)それほど怖くないかもしれませんが、読みやすい〕

《12》ナボコフ『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』(富士川義之・訳、講談社文芸文庫)(Ama)
〔ナボコフといえば、有名なのは『ロリータ』なのでしょうが、こちらは非常に読みやすいです。〕

《13》スティーヴ・エリクソン『きみを夢みて』(越川芳明・訳、ちくま文庫)(Ama)
〔これも読みやすかった記憶があります(たしか)。スティーヴ・エリクソンは、あまりよんでませんが〕

《14》ポール・オースター『最後の物たちの国で』(柴田元幸・訳、白水Uブックス)(Ama)
〔他作品の文庫を挙げようかと思いましたが、やはりこれが好きなので。内容はおそろしい寓話。もう一度読み返したいが、字体が小さいので、どこか文庫化してくれないものか〕

《15》メルヴィル『書記バートルビー/漂流船』(牧野有通・訳、光文社古典新訳文庫)(Ama)
〔『白鯨』はちょっと、という方に、まずはこれから読んでみてください〕

《16》シャーリイ・ジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』(市田泉・訳、創元推理文庫)(Ama)
〔(2018年1月27日紹介)これは文学ではないかも知れませんが、文学的な読みは出来るのではないかと(たぶん)〕

《17》ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』(土屋政雄・訳、光文社古典新訳文庫)(Ama)
〔(2017年8月26日紹介)おもしろくて怖い。〕

《18》チャールズ・ディケンズ『ディケンズ短篇集』(小池滋/石塚裕子・訳、岩波文庫)(Ama)
〔怪奇と幻想が少し入り混じった短編集です。でもちょっと暗いところあります。不安にとらわれた登場人物は現代的かも〕

《19》ド・クインシー『阿片常用者の告白』(野島秀勝・訳、岩波文庫)(Ama)
〔ボードレールに影響を与えた自伝文学。タイトル通りです。読み返したくなった〕

《20》ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』(御輿哲也・訳、岩波文庫)(Ama)
〔これを読んでいる時、自分の中を透明な何かが通り過ぎて行った。その気分をもう一度味わいたいので、別の翻訳で再読したい。〕

《21》アンナ・カヴァン『』(山田和子・訳、ちくま文庫)(Ama)
〔(2017年12月25日紹介)世界に迫る終末を描いた名作です。〕

《22》バリー『ケンジントン公園のピーター・パン』(南條竹則・訳、光文社古典新訳文庫)(Ama)
〔(2017年7月27日紹介)去年読んだ光文社古典新訳文庫のなかで、一番心に残った作品。『星の王子さま』を好きな人にもそうでない人にも読んでもらいたい〕

《23》ローデンバック『死都ブリュージュ』(窪田般彌・訳、岩波文庫)(Ama)
〔ひそかに愛する作品。暗いですけどね。また読みたい。〕

《24》バルザック『グランド・ブルテーシュ奇譚』(宮下志朗・訳、光文社古典新訳文庫)(Ama)
〔(2017年5月3日紹介)表題作の「グランド・ブルテーシュ奇譚」は、まさかホラーとは思わなかったので、初読時には不意打ちを食らい、今でもその光景を思い浮かべるだけでゾッとしてしまう〕

《25》サン=テグジュペリ『人間の大地』(渋谷豊・訳、光文社古典新訳文庫)(Ama)
〔『星の王子さま』より、なんぼか好きな作品。とにかくよかった。〕

《26》ルイ-フェルディナン・セリーヌ『なしくずしの死』(高坂和彦・訳、河出文庫)(Ama)
〔比較的若い時に『夜の果てへの旅』(中公文庫)(Ama)を読んで衝撃を受け、本書も、その後、熱に浮かされるようにむさぼり読んだ記憶が。これもまた再読したい。〕

《27》ミシェル・ウエルベック『地図と領土』(野崎歓・訳、ちくま文庫)(Ama)
(最後に衝撃が待っている作品。ただ、文庫の商品案内にはネタバレがあるのでご注意を)

《28》ミシェル・ビュトール『心変わり』(清水徹・訳、岩波文庫)(Ama)
〔二人称で語られる恋愛小説ですが、とんでもなく読みやすい。思った以上に読みやすくてびっくりした記憶が〕

《29》ロブ=グリエ『迷路のなかで』(平岡篤頼・訳、講談社文芸文庫)(Ama)
〔逆に、ロブ=グリエは、ほとんどの作品がよく分からない。その中では、これは分かりやすかった。ゲーム世界の中を進んでいく様を想像して読んだら以外と面白かった記憶が。〕

《30》ル・クレジオ『物質的恍惚』(豊崎光一・訳、岩波文庫)(Ama)
〔哲学的小説というか、詩作的思索の物質化された表現というか、とにかく波長の合うときと合わないときとで、受容が変わる作品。酔っぱらった時に読むと、さらに酔えます。〕

《31》レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』(川田順造・訳、中公クラシックス)(Ama)
〔文学(フィクション)ではないかもしれませんが、私は文学作品としてもおもしろく読めました。とにかくよんでほしい。南米への非紀行文学的紀行文。講談社学術文庫版(未読)もあるのですが、アマゾンレビューによると翻訳がひどいそうなので、この中公クラシックス版を。〕

《32》マリオ・バルガス=リョサ『楽園への道』(田村さと子・訳、河出文庫)(Ama)
〔これは長編ですが読みやすかったと思う。ポール=ゴーギャンと、その祖母フローラとの生涯を交互に描いていくものです。大河ドラマ的なものとして読めるかと〕

《33》ガブリエル・ガルシア=マルケス『予告された殺人の記録』(野谷文明・訳、新潮文庫)(Ama)
〔『百年の孤独』(Ama)に挫折した人には、ひとまずこれを。幻想が入ってくるようなややこしさはなかったと思う。薄い、すぐ読める、おもしろい。〕

《34》ホルヘ・ルイス・ボルヘス『伝奇集』(鼓直・訳、岩波文庫)(Ama)
〔これまた定番中の定番です。まあ、おもしろいです。〕

《35》フリオ・コルタサル『悪魔の涎・追い求める男-他八篇』(木村榮一・訳、岩波文庫)(Ama)
〔コルタサルはよく分からないところもありますが、面白い短編集です。ちょっと色々読みなおしたくなってきた。〕

《36》ホフマン『ホフマン短篇集』(池内紀・編訳、岩波文庫)(Ama)
〔幻想文学好きなら、必読でしょう〕

《37》ノヴァーリス『青い花』(青山隆夫・訳、岩波文庫)(Ama)
〔ノヴァーリスは、ドイツ・ロマン派では重要な人物なのですが、よく分からないところもあります。しかし、なぜか気になる〕

《38》『トオマス・マン短篇集』(実吉捷郎・訳、岩波文庫)(Ama)
〔トーマス・マンの長編はちょっと、という方にお薦めしたいのですが、ただめちゃくちゃ暗かった記憶があるので、読まなくていいかも。〕

《39》ニーチェ『ツァラトゥストラはこう言った』(氷上英廣・訳、岩波文庫)(Ama)
〔これも文学ではないですが、文学的なものとして読むと面白いかも。他の翻訳が色々文庫で出ています。〕

《40》フランツ・カフカ『城』(前田敬作・訳、新潮文庫)(Ama)
〔定番の中の定番。カフカは日記もいいけど。この作品は、例えるなら、RPG(ドラクエとか)をプレイしていて、城への入り口をさがそうと城下町をうろうろするも、それが見つからないというバグが発生したものとして楽しむと、内容的には許容できるかもしれません。別の訳(池内紀訳)で読みなおしてみたい。〕

《41》ザッヘル=マゾッホ『毛皮を着たヴィーナス』(種村季弘・訳、河出文庫)(Ama)
〔マゾヒズムの語源になった作家。読む前は身構えたものの、めちゃくちゃ面白かった記憶がある。『残酷な女たち』(河出文庫)もあわせてどうぞ。マゾっぽい人に。また読み返したい。〕

《42》ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』(千野栄一・訳、集英社文庫)(Ama)
〔詳しい内容はほとんど覚えていないが、よみやすかった記憶がある。タイトルがかっこいい。〕

《43》ジョン・マクスウェル・クッツェー『夷狄を待ちながら』(土岐恒二・訳、集英社文庫)(Ama)
〔クッツェーの作品はそんなに読んでないですが、これは読みやすかったと思う。〕

《44》ディーノ・ブッツァーティ『タタール人の砂漠』(脇功・訳、岩波文庫)(Ama)
〔(2017年10月27日紹介)イタリアの作家。ブッツァーティは短編もいいですけどね。よく、この作品について、「人生ってこんなもんだよね」とか、「人生に変な期待はしない方がいい」とか、そんな教訓めいた感想が言われますが、そんなつまらない読み方をしても面白くない。「待つ」ということが実は積極性を帯びており、いかに可能性を秘めており、またいかに豊穣なのかを、自ら実践してみることが大切。いるのかどうかわからない「湖の主」的なものを狙って毎日釣り糸を垂れることは、人の嗤いものになるかもしれないが、そこからは様々な発見や出会いや意図しない釣果があるかもしれないのです。でも、それを待つこと自体は、やっぱり無意味なんですけどね。で、結局最初に否定した教訓めいた感想と同じところに行きつく。〕

《45》ピランデッロ『月を見つけたチャウラ』(関口英子・訳、光文社古典新訳文庫)(Ama)
〔イタリアの作家。ちょっとした幻想を味わうのにいい短編集です。〕

《46》プリーモ・レーヴィ『天使の蝶』(関口英子・訳、光文社古典新訳文庫)(Ama)
〔プリーモ・レーヴィもイタリアの作家で、アウシュヴィッツから奇跡的に生還した人物。本作は幻想短編だが、単なる幻想ものではすまされない重要さがあるように思う。〕

《47》パヴェーゼ『祭の夜』(河島英昭・訳、岩波文庫)(Ama)
〔これまたイタリアの作家。私は、まあまあパヴェーゼが好きです(小声)。しかし、現実の世界で、「わたしもパヴェーゼ結構好きです」という人にあったことはありません。〕

《48》モラヴィア『薔薇とハナムグリ』(関口英子・訳、光文社古典新訳文庫)(Ama)
〔またまたイタリアの作家。「シュルレアリスム・風刺短篇集」という副題で、おもしろかった。まだまだ他にも同様の作品があるようなので、是非とも読みたい。〕

《49》アンドレ・ブルトン『シュルレアリスム宣言/溶ける魚』(巖谷國士・訳、岩波文庫)(Ama)
〔「シュルレアリスム」って聞くことはあるでしょうが、それって何やねん、という人に。しかし、これ読んでもよく分からないと思う。なので、ワルドベルグ『シュルレアリスム』(河出文庫)、巌谷國士『シュルレアリスムとは何か』(ちくま学芸文庫)、酒井健『シュルレアリスム』(中公新書)あたりを読めば、概要は分かるかも。しかし、分かったからといって、生活の足しにはなりませんが。〕

《50》フリオ・リャマサーレス『黄色い雨』(木村榮一・訳、河出文庫)(Ama)
〔最近読んだ本。「比類なき崩壊の詩情」。滅びゆく村と運命を共にする男性の孤独と幻想が素晴らしい翻訳でこちらの身に迫る。私の枕頭の書に加わりそう。〕

【番外編:詩や箴言集など】
私は、詩を読む(詠む)ものの、完全に無手勝流な読み方であり、ここで何か読み方を説くことはできません。海外詩を読んでいると、これって日本語で読んでていいのかなぁ、といった感想に陥ります。まあ、対訳詩もありますが、それは結局翻訳して読んでるだけですからね。日本語の詩でも難しいのがあるのに、海外詩はもっと難しいです。
でも、最近文庫化された『ウンガレッティ全詩集』(河島英昭・訳、岩波文庫)(Ama)の最初の方を読んでいたら、好きに読んだらいいのではないかと思いました。例えばその詩集の最初は、「永遠」という題の「摘みとった花と贈られた花/そのあいだに言いあらわせぬ虚しさ」という短い詩。この「あいだ」にある「虚しさ」とはどんなものだろう。何を表しているのかは分りませんが、生けるものとそうでないものとの「あいだ」にある断絶が、永遠的な「虚しさ」としてかんじられます。また「五月の夜」という題の「回教寺院の尖った頭に/空がかぶせた/燈明の花冠」なんてのは、どこか俳句的な光景として見られるのではないでしょうか。まあ、詩を読むのに誤読をおそれてはいけないということですね。
しかし、『パウル・ツェラン詩文集』(飯吉光夫・編訳、白水社)(Ama)などのツェランの詩なんかは、詩だけ見ると、何が書いてあるか分からないので、解説本とかを読まないといけない。アドルノが「アウシュヴィッツ以降に詩を書くことの不可能性」みたいなことを述べても、ツェランは、沈黙するのではなく、詩の可能性を掘りだそうとした、その言葉を読み取ると胸に迫るものがある。よく分からないところもあるが。
その一方で、『マヤコフスキー叢書』(小笠原豊樹・訳、土曜社)(Ama)は、分かりやすい。例えば、「ズボンをはいた雲」の冒頭の一連。「きみらが考えること、/ふやけた脳味噌でぼんやり考えること、/垢じみたソファで寝てる脂肪太りの召使にも似たそいつを、/ぼくは焦らしてやる、心臓の血みどろの襤褸にぶつけて。/飽きるまで嘲り蹴ってやる、鉄面皮に、辛辣に。」これを読むと、何かしないといけないという何かが湧きあがってくる。
分かりやすいというと『フランシス・ジャム詩集』(手塚伸一・訳、岩波文庫)(Ama)は、ひそかに愛する詩人。春になるとページをめくりたくなる。
『ロルカ詩集』(小海永二・訳、土曜美術出版販売)(Ama)のロルカの詩は、分かりやすさと、少しだけ難しめの「暗喩」がほどよいバランスで良い。
さて箴言集だが、シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』(冨原眞弓・訳、岩波文庫)(Ama)は一言一言が重い。彼女のような生き方は出来ない。
フェルナンド・ペソア『新編・不穏の書、断章』(Ama)を読むと、なんかオシャレだなぁと思う。
最後にシオランについて。シオランをおススメするのはどういうことなんだろう。よく、シオランがTwitterやってたらなんてことをきくが、今生きてたら、やってるのかなぁ。ということは、Twitterで変なこと呟いている人ってことで、ネタ的な箴言的独白(毒白)として受け取れば面白いかも。私は、Twitterをやらないのでよく分からないが、「不幸に見舞われたとき、他人にその不幸への関心をもってもらいたいと思うのは、精神の一種の卑しさである。」(『カイエ』)なんてのはマトモだし、自覚的ではあるし(たぶん)、ネットで変なことは言わないかな。それとも、夜に調子が悪くなったりしたら、毒を吐いたりするかも。

(成城比丘太郎)

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