- インドで人生の意味を問う群像劇
- 深い……のかどうなのか、私にはわからない
- 基督教への分かりやすい考察
- おススメ度:★★★☆☆
(あらすじ)妻をがんで亡くした男、基督教徒の男を弄んだ女、ビルマの戦場で地獄を見た老人、死に瀕して鳥と心を通わせた童話作家といった面々が、それぞれの思惑を抱き、インドへの旅に出る。インドではガンジス川を中心に、生と死が交錯するなか、それぞれの人生における課題を探る。基督教への考察も掘り下げており、神とは何かを問うような内容になっている。
あまりに有名な遠藤周作の作品。今回は知人に勧められて読んでみた。「DEEP RIVER」として宇多田ヒカルが影響を受けた話も有名だろう。私は何の予備知識もなく読んでみたので、何の話なのかは事前に分からなかったが、要は人生の意味と神の意味を問う文芸作品である。
ホラー的な意味を最初に書いておきたいが、上記のビルマで地獄を見た老人の話がそれに近い気がする。しかし、そのエピソード自体は既視感に溢れるもので、なぜかというと「野火」で読んで掘り下げられていたエピソードであるからである。老人の体験した地獄と、彼の友人の話は分かる。しかし、これ自体は「野火」の方が遥かに心に迫るものがあった。
おそらく、群像劇である点が、ある意味テーマを分散させているようにも思える。もちろん、それぞれが抱える問題が共通のテーマであるということは承知の上で書いている。彼ら個別のエピソードは、興味深いものばかりで、それぞれの章は短編としても読めるほどの完成度だとは思おう。そして、最も重要なのは、美津子という基督教徒の男を弄んだ女性である。実質上の主人公ではないかと思う。
しかし、困ったことにこの女性にはあまり共感はできない。共感ができないように書かれているからなのだが、そのせいで、若干物語としてはもどかしく感じることもある。逆に大津というその対象となった男の生きざまには、心揺さぶられる要素がある。このキャラクターの一連の流れは一読の価値がある。
とはいえ、人生の不条理を描く話は無数にあり、ラストの無常感も残念ながら既視感がある。私なりの理解では、神はそれぞれの心の中にいるという結論も、胸に刺さってはこなかった。
本という物は、人生には読むべき時とタイミングというものがある。宇多田ヒカルは恐らく、この本にちりばめられた何かのワードに心惹かれたのだろう。その、理由は分かる気がする。
読み終わっても、不思議とふわふわした印象の本作品。私が無宗教だからだろうか、それとも、人生に打ちのめされ過ぎたからだろうか? 読むべき時が違えばもっと感想も違ったかもしれない。読む人の分だけ、感想が変わるような本なので、このサイトの評価は気にせずに、気になったら一度読んでみられてはどうだろうか?
(きうら)