- 伝聞調のショートショート現代怪談集
- 類似作品に比べ文章・落ち共に秀逸
- ちょっと怪談を読みたいときに最適
- おススメ度:★★★☆☆
現代の怪談を著者が蒐集したという内容で書かれているいわゆる「私の知っている怖い話」系の作品集。この手の作品は無数にあるが、今回、読んでみようと思った理由は、表紙のイラストがなかなか秀逸なのと、文章が無料で読める作品などと比べると明らかにレベルが一段上だと感じたため。出版先を見ると角川ホラー文庫となっているので、やはり本になっているということはある程度のクオリティがあるということだろうか。
(あらまし)基本的に「無残」の名前の通り、少々後味の悪いオチのつく短い怪談が100編収められている。長くても一桁のページ数の物語で、短いものは一ページというものもある。一話完結型だが、時々同じ人から聞いた関連話として連作化しているものもある。特に後半は戦時中の話が少し続く部分もある。ただ、全体的には類型的な話を排してバランスよく配置されている。
シリーズ化もされているだけあって、ピリッとした落ちがつくものが多く、掲示板の書き込みなどの投げっぱなしの話と比べれば差は良く分かる。短い話なので、概要を書くとほとんどネタバレになるが、印象に残ったものをいくつか紹介したい。
「たちちね」タイトルは母親の別称。ある母親を亡くしていたある男の昔ばなし。母親が恋しくて仕方がない彼は、ある時、箪笥から乳白色の液体が流れているのに気が付く。彼はそれを亡き母親の乳と思って舐めるのだが、後日、その液体の驚愕の(かなり気持ち悪い)正体が明らかにされる。
「よりしろ」ある東日本に住む60代後半の男性。山暮らしの山男である。ある時、姪の友人の女子大生から、女人禁制の山を案内してほしいと言われる。嫌々ながらも案内した男を待っていたのは謎の声。「さんだいまでは、たすからんぞ」。何が起こったかは本編を読んでみて欲しい。
「ガンの家」入居すると必ず癌になるという不気味な家があった。もちろん発がん性物質などはない。すでに16名まで癌で無くなっているという。さぞや、誰も住みたがらないかと思いきや……少々皮肉なオチが待っているブラックジョーク風の小編。
どうだろうか。シチュエーションも様々で、それなりに興味深い内容だと思う。他にも笑い話風のエピソードや戦争関連のエピソードもある。
実は類似した怪談集も読んでいたのだが、それは途中で投げてしまった。やはりこういうタイプの怪談集にも「質」の差があって、単に人に聞いた怖い話を書けばいいというわけではないというのが良く分かる。作者はプロとして全体のエピソードをきちんとコントロールしていると感じた。
とはいえ、霊が存在することが前提の、説明の仕方次第ではどうとでも取れる内容も多いので、強烈におススメはしないが、こういう「ちょっとした怖い話」が好きな方には楽しめるのではないだろうか。
最後に、一番印象に残ったエピソードを紹介。オチで勝負というわけではないので、ネタバレ気味で概要を書いて終わりにしたい。
「たたりば」幽霊が見える女性の話。その女性がある時ものすごく怒ったお爺さんの幽霊を見る。それは怒っているというより「祟っている」レベルだという。表情がすごいらしい。話の肝はここからで、実はそれとそっくりの表情をしている「生きた人間」をよく見かけるらしい。「ひょっとしたらこの国全体が<祟り場>になったのかもしれない」という話。本編にはこの語、もう一言用意されている。
今日もネットやテレビから溢れてくる殺人事件や高速道路での危険運転の報道を見つつ、ため息を吐く。ただし、こういう世界の見方は危険だ。このような暗いフィルターを通して物事を考える癖をつけると厭世的な人間になってしまう。これは私の実感なので、くれぐれもご注意を。一笑に付されてもやはり「愛」や「情熱」は、人間にとって重要なものだと思う。
(きうら)