- 読書メモ(028)
- ブッツァーティ未邦訳短篇集第二弾
- 日常に潜む陥穽と幻想と
- おススメ度:★★★★☆
【はじめに】
本作品は、一年ぶりのブッツァーティ短篇集。内容は、変身譚・復讐譚・昔話のようなノリなどなど。まあ個人的には、これくらいの刊行期間がよいのではないかとも思う。今回もいろいろ楽しめたのだが、第一弾に比べると、期待が大きかったせいか、読後読み足らない部分もあった。それは私に原因があるので、本作の出来には問題はないと思う。ちなみに、ここには彼の中期から後期にかけての作品が収められている。
【簡単な各作品感想】
・「卵」
卵探しのイベントに訪れた一組の母娘に向けられる理不尽な仕打ち。そしてそれに対抗した母。最後は何か平和的だが・・・。
・「甘美な夜」
しずかな夜の庭で繰り広げられる小さな生物たちの「死の狂宴」。小さくも残酷な絵画的な夢想。
・「目には目を」
家に出没した虫を叩き潰していく住人たち。やがて一家には虫たちの復讐が・・・タイトル通り。
・「十八番ホール」
人生に疲れて、どーでもよくなった男が、変身するという話。
・「自然の魔力」
夫婦のちょっとした言い合いから、なぜか月が地上に降りてくるというカタストロフへと話はすすむ。月は狂気ということだろうか。短編ムービーっぽい。
・「老人狩り」
まあなんというかタイトル通りの展開。若者たちが年長者へうっぷん晴らしの暴力を加える。若さの勢いと急激な老い。追う者が追われる者になるという顛倒が面白い。
・「キルケー」
若い娘に夢中になった男の顛末。「私」の視点で語られるせいか、なんか哀れさを感じる。
・「難問」
終身刑服役者たちが、公衆の面前で一度だけスピーチをして、その反応によっては自由の身になれるという話。そこで、悪意のある大衆に向けて、「おれ」が機転を利かして行ったスピーチとは?
・「公園での自殺」
車に狂った夫への愛で、車に変身した妻の話。なんというか、身勝手なかんじもする。
・「ヴェネツィア・ビエンナーレの夜の戦い」
真夜中の展覧場で繰り広げられる戦い。なんというか、芸術家の妄執を感じるような。
・「空き缶娘」
空き缶に変身する娘の話。これもまた身勝手な感じ。愛する男にふられた女と空き缶の空しさのイメージがダブる。
・「庭の瘤」
自分の近しい人が亡くなるたびに、庭にできる瘤のような隆起。過ぎ去っていった友への悲哀と、自らの運命の兆し。なかなか味わい深い良い短篇。
・「神出鬼没」
突然魔術的な力能により異能力を手に入れた作家の話。単純だが、現代のテクノロジー社会への便利さを思わせなくもない。
・「二人の運転手」
母を亡くした日の、丁度その時のことを、何か言いようのない感覚とともに呼びさまされる。哀惜とは違うが、何かそれに近い感じがする。
・「現代の地獄への旅」
表題作。八つの短篇からなる中篇小説。地下にある地獄への扉をリポートするように依頼されるのはブッツァーティその人。そこへ通じる梯子をのぼって、地獄にたどり着くという展開は、まさに異世界ものを思わせる。そこに広がっていた地獄の世界は、普段彼がいたミラノの街となんら変わらないものだった。地獄を案内するのは「悪魔夫人」。悪魔といっても見た目は人間。彼女から見せられた世界の人間は、まるでシムシティの車のようにセカセカと苦しげに動き回らされる。そこで、彼は「地獄のルポルタージュ」を書かなければならないのだが・・・。なんか、現実の世界となんら変わらない酷さをデフォルメしたような感じ。
【まとめ】
第一弾『魔法にかかった男』が予想以上に面白かったので、これも期待して読んだ・・・のだが、ちょっと期待値を高く設定しすぎたせいで、読後はなんかイマイチだった。しかしそれから、一週間も経つと、ここに書かれたものが深く突き刺さっていたのに気付いた。一度だけで読みすてるものではないのだろう。私は貧乏性だから、どうしても本の価格以上のものを期待しすぎるきらいがあるので、しょうがない。何度も読み返すことで、味わい深くなるだろう。
(成城比丘太郎)