- ある島(国家)で行われる実験と、それに携わる男の行末。
- ミステリーの要素が付け加わっている、社会派小説のよう。
- 紹介文というより、印象と感想を。
- おススメ度:★★★☆☆
私は、ディキンスンの作品は一度も読んだことがなく、どのような作家か予備知識がなかった。先日『ゾンピ・パラサイト』を取り上げた後、『生ける屍』を購入したまま放っておいたのを思い出し、本棚から引っ張り出して読みはじめた。予備知識がないといったように、はじめは、これはてっきり「ゾンビ」に関するホラーかなんかかと思っていたが、どうやら違うということに約100ページ読んだところで気付き(どこかで同じようなことを書いた覚えがあるが)、そこまで読んでも話の流れがつかめず、文庫の裏カバーにある作品あらすじを読んで、ようやく何が書かれているかわかった始末。
主人公の「フォックス」が会社の命令で、カリブ海に浮かぶとある島の研究所に赴任するところから話は始まる。あらすじとしては、「amazon」の<a target=”_blank” href=”https://www.amazon.co.jp/gp/product/4480430377/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4480430377&linkCode=as2&tag=scary22-22&linkId=b9c5b50baaa89c2cb238bdfa845e6185″>商品ページ</a><img src=”//ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=scary22-22&l=am2&o=9&a=4480430377″ width=”1″ height=”1″ border=”0″ alt=”” style=”border:none !important; margin:0px !important;” />にとんでいただいて、商品内容を読んでいただいた方が早い。そこに書かれている以上の事は特に書きようがないし、同じような内容をここに書いたとしても、あまり意味がない。意味がないというのは、この作品を読む上で、似たような文章を書くことに、ということである。あらすじだけでは、この作品の雰囲気はひとつも味わえない(当たり前だが)。
「生ける屍」と恋人によばれた「フォックス」は、淡々と自らに課された作業をこなしている。しかも、大きな流れにさからわない。いわば物語の流れに乗って、あまり何も考えていないようにみえる(つまり、積極的に何か大きなことを成し遂げようと考えるわけではない)。しかし、ただ単に消極的な人物とは違うような気もする。空虚な人間とは、もっとひどい状態のような気もするが、それは私の勝手な解釈だろうか。囚人たちに、「自由意志」を求めるところなどを勘案すると、それほど「生ける屍」ともいえない気がする。それとも、「クエンティン」という存在が、彼を突き動かしているだけなのだろうか。実は、このあたりは、本当のところよく分からない。いずれ再読して考えてみたい。
魔術とは、ファンタジー的な作品では、現実(やその他の世界)に潜む不可視の力を取り出し、それを何らかの形で具現化したものというのが、一つの有り様だが、この島では、魔術が、現実に「深く根をおろしてい」て、現実世界のひとつの体系をつくりだしている。それは、現代の科学に対する信奉と対立するもので、独裁者の支配の源泉ともいえる。しかし、よく考えると、貨幣信仰とかのフェティシズムみたいなものも一種の魔術だろう。一般的に《魔力》という表現も使われるわけだし、この島の住民が、狂気に取りつかれ、遅れたものなどとは一概には言えないかなと思う。
さて、この作品には、奇妙な比喩的表現が出てくる。例えば、「砂の床に、水底生物の触角のように手が上がり、ゆらゆらと祈りをささげるように揺れ動いた」とか、「彼の前にずらっと並んだ顔はいっせいに、無意識に目を見開き、養殖床のムラサキ貝が潮流の変化によっていっせいに口を開くような動きを見せた」などの文章は、その人物たちの状態をよくあらわしているようで、なかなか面白く読めた。
本書は、けっして読みやすいとは言えません。そういったことを念頭に読むと、いいかもしれません。というか、物語的にも淡々といているし、ミステリー的にも肩透かしの面があるので、あまり強い期待はしないでください。そういう作風が好きな人には、あっていると思いますが。
(成城比丘太郎)