- 家と森にまつわる因縁。
- 結構単純な怪異の連続だが、結構怖いです。
- とにかく主人公の少年がスーパーなメンタルの持ち主。
- おススメ度:★★★☆☆
多分、三津田信三を読むのはこれが初めてだと思います。「ホラーとミステリを融合させた独特の作風」と紹介文にある通り、ホラーを基調に、ミステリと少しのサスペンスを付け加えた、なかなかの面白さです。
本書は、主人公の「棟像貢太郎(12歳)」が、祖母とともに、引っ越してくるところからはじまります。貢太郎は、なぜか引っ越し先の町に既視感をおぼえ、家に不吉な予感を感じたり、不気味な森を恐がったり、住人の老人に奇妙なことを言われたりと、導入部分から、ホラーっぽい要素が満載です。
貢太郎は、新しい住居で、何かの気配を感じます。この家にまつわる恐怖というのは、栗本薫『家』でもそうでしたが、なかなかリアリティを感じます。私も幼少期に、夕方帰宅したら誰も家におらず、家族が帰ってくるまでの数時間、自分の部屋だけ明かりをつけて、薄暗い家の中で、じっとしていたあの時の怖さを思い出しました。屋外の町のざわめきを聞きながら、家には自分の他に誰かいるかもしれないと、そんな気配を感じていました(錯覚)。
貢太郎は、家だけでなく、町に鎮座まします森(個人が祀る鎮守の森)で恐怖体験もするのです。一人では対処できなくなった貢太郎は、町に住む同い年の「生川礼奈」に事情を話し、彼女と一緒に怪異の謎と、貢太郎の家にまつわるある因縁を探るのです。
後半にかけて、ホラーにミステリが加わり、最後はサスペンス風にもなります。ありがちな怪奇ネタだけで、これだけのホラーの雰囲気を書き上げる作者の力は、なかなかすごいです。とはいえ、解かれていないのではないかと思われる謎も残り、さらに、この貢太郎君が、小学生にしては余りにもスーパーなメンタルと、冷静な判断力と、論理的な思考力(これはいいのですが)を持っていて、そのあたりがご都合主義的な面として、少し残念な部分です。
(成城比丘太郎)