- 赤裸々で陰鬱な青春物語
- タイトルほど仕事が苦役でない
- 寧ろ「生まれ」についての苦悩
私はかねてより、労働の本質を描くと絶対ホラーになるのではないかという意見を持っており、それがこの本を選んだ理由だ。奇しくも先日紹介した「うなぎ鬼」も、借金と労働という、ある意味「生きることそのもの」にまつわる恐怖だったが、本書はそういう側面もあるが、どちらかというと真っ当な青春小説だと思う。
(あらすじ)幼少時に父親が性的犯罪を犯し、生来の頑固な性格もあり、北町貫多は、理由のない劣等感と怒りを込めて、埠頭の冷凍倉庫で5500円の日当欲しさに日雇い仕事を続けていた。彼はまだ19歳だったが、将来への希望も微塵もなく、同僚の専門学校生に柄悪く絡んだりして順当に道を踏み外していくのであった。他に、後年私小説家となった(!)貫多の思惑を描く「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」を併録。
嫌いな人なら数ページも読破できないであろう、ネチネチとした陰鬱な青春が描かれている。あらすじにあるように、父親が犯罪者になってしまったことで、彼の人生の鬱屈度合いはマックスに達し、木賃宿かと思えるような安宿で、5500円を稼いでは、酒と風俗に浪費するそんな青年の自堕落な描写が続いていく。
転機が訪れるのは、専門学校生という日下部という同僚の若者と友情めいたものが芽生える中盤から。ここで、一旦労働の苦しさは影を潜め「持つ者と持たざる者」の悲哀、もっと言うと貫多の日下部に対する愛憎入り混じった友情が描かれる。最終的には、彼らの運命は予想通りではあるのではあるが、途中、彼が日下部とその彼女に浴びせかける悪罵は、あまり悲しく、そして虚しいものだった。
労働の恐怖という意味では、上記の「うなぎ鬼」で挙げた作品群の方が面白いので、そちらをお勧めする。という訳で、最後に気づいたが、144回芥川賞を受賞している作品なのである。なるほど、いつも直木賞ばかり注目されて芥川賞があまり注目されない理由が良く分かった。この内容では若い読者はついて来ないだろう。ちなみに石原慎太郎が解説を書いているが、それもなんだかおざなりな感じで、全体的な陰鬱な雰囲気はぬぐい切れなかった。
その貫多が私小説作家になっているというはある種驚きの展開だが、パラパラと呼んだ「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」も良く似た作風の悲しい小説であった。
というわけで、積極的におススメはしないが、鬱屈した青春を過ごしている方やそうであった方には共感はできると思う。労働での事故やいじめなどの描写は少ないので、ホラーとしては読めないと思うが、便利な言葉で「文学」だと思えば、それなりに納得できるから不思議だ。短い小説なので興味があれば、一読されれば。
素直に共感はできないが、いいタイトルの小説ではあると思う。
(きうら)