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★★★☆☆

蜂と蟻に刺されてみた(ジャスティン・O・シュミット、今西康子[訳]/白揚社)

投稿日:2018年10月13日 更新日:

  • 「痛さ」からわかった毒針昆虫のヒミツ(副題)
  • 刺されて一番痛い「虫」は何か
  • 昆虫の生態学的見地から得られたもの
  • おススメ度:★★★☆☆

【はじめに】

原題は『THE-STING-OF-THE-WILD(自然界における毒針)』ということで、邦題から連想されるような、なにかMっ気のある人が虫に刺されてみただけの記録ではない。まあ、著者は小さい時から虫に刺されていたようだし、研究のためにある程度刺されてみようという気概(?)はあるので、それなりに刺されることに耐性はありそう。とはいえ、読んでいると、とんでもなく痛がる描写も出てくるので、虫に刺されることに対して平気というわけでもない。著者は、虫刺されの痛み(主観的なもの)をスケール化(尺度)して、2015年度に「イグ・ノーベル賞」を受賞した。本書は、刺針昆虫の生態を知ることができるし、虫たちが針や毒液をどうやって獲得したかも知ることができるという、かなり刺激的な内容になっている。

【簡単な内容紹介と感想】

ここで取り上げられる昆虫の多くは、著者が主な研究のフィールドとしているアメリカの虫たちだ。今日本でも注目を集めるヒアリのことも述べられているが、そこでは、ヒアリがどうやって北米で蔓延ったのかが人間との関わりで語られている。「彼を知り己を知れば百戦あやうからず」というわけではないが、ヒアリと直面する時には、人間側のヒアリへの反応にも気をつけねば。まあ、いざとなれば触らぬなんとやらなのだが(ヒアリよりも、もっとおそろしい蟻が南米にいるので、まだましかも)。

蜂や蟻がどうして、刺されると痛い針を持ったのか、また時に強烈な毒液を身に帯びるようになったのかが、納得的に述べられる。というか、著者や研究仲間たちの経験を基に書かれているので、とにかく痛さがよく伝わる内容。とにかく、これだけ刺されてよくアレルギー症状がでないなと感心するほど。これはもう、体質的なものとしか言いようがないかも。

虫の針があれほど痛いのには訳があって(私はあまり刺されたことはないが)、それは「わたしらを攻撃しようとしたら痛い針で刺すでぇ」という、昆虫側のある種の防衛機制のあらわれがあるよう。ただし、メスだけが針を持つようなのが(オスは何も持たない)、なんとなく笑える。また、社会性を持つ種の蜂や蟻が強力な毒液や針を持つのにも訳がある。そいつらにとって大事なのは、集団というコロニーを守るためであって、そのために毒液や刺針を進化させたかもしれないのである。強大な相手に立ち向かうための武器なのである。そして、ミツバチが刺した相手に針を残して死ぬというお馴染みの(?)「自切」という行為にも訳がある。ミツバチ(や蟻など)にとって大事なのは、先にも書いたように集団を守ること。そのために、一匹一匹が犠牲となって、自分のコロニーを攻撃しようとした相手に、なるべく多くのダメージを与えなければならないのだ。「もうわたしらに手を出したらあかんで」と警告するために。

著者は、なにも好き好んで虫たちに刺されにいっているわけではない。研究対象の昆虫の生態をよく知るため、それに付随する形で「痛み」を伴うものがあるというだけの部分もあるだけなのだ。何度も書くが、この本はユーチューバー感覚で(?)、刺された痛みをスケール化したのではない(と思う)。研究の結果として、導き出されたものでもあるのだ。

【世界で一番痛い虫は何?】

では、世界で一番刺されていたい昆虫は何かというと、中米・南米にいる「サシハリアリ」だそうである。なんせ、40年にもわたって世界中、昆虫を求めてきた著者がいうのだから多分そうなのだろう。「痛みの強度と持続時間がサシハリアリに迫る昆虫にはまだ一度も出遭っていないのである」というくらいだから。この蟻は、南米のアマゾンに棲息していて、ある部族では、この蟻に刺されることが通過儀礼のひとつになっているよう。さらに、アマゾンでは、毒蛇に対する注意看板はなくとも、サシハリアリへの注意看板があるくらいだから。その蟻に「刺された時の感じ」は、「目がくらむほどの強烈な痛み。かかとに三寸釘が刺さったまま、燃え盛る炭の上を歩いているような」というもので、痛さ的には最高評価。かなり攻撃的な蟻のようで、ヒアリどころではないなぁ。

【ミツバチとの共生】

ミツバチは人間の生活に欠かせない物であることはいうまでもない。その蜜の獲得から、さらにミツバチには動物避けの効果があるよう(詳しくは本書で)。ミツバチは、刺針昆虫のなかで一番その毒液研究が進んでいる。ミツバチからたくさんの恩恵を受けているからこそ、ヒトにとってミツバチは最も身近な刺針昆虫なのだ。さらに、ミツバチの毒液は昆虫の中で最高レベルの殺傷力を持っているらしい。とにかく、ヒトとミツバチの共生関係は、いい関係だということ。ちなみに、著者は、不用意からミツバチに舌を刺されたことがあるようで、それはもうとんでもない痛みだったよう。くれぐれも口を開けたままにしないようにということだ。

【さいごに余談】

本書には、ニホンミツバチとオオスズメバチとの格闘(ニホミツバチの蜂球のこと)も述べられている。ここでふと思ったことがある。どうでもいいかもしれないが、日本人はちょっとスズメバチやアシナガバチに厳しすぎやしないか。住宅地付近に巣を張ったりしたものを駆除したり、食用のために捕獲したりする分には仕方ないが、わざわざ森の奥にまで追っていってその巣を駆除するのはやめたりいや、と思う。そっとしといたりや。森や山で被害に遭わないように、人間側が気をつければええだけやろ。スズメバチにも生きる権利を認めてぇな。本書での、蜂や蟻を徹底的に駆除しようとした結果どうなったかについて書かれているものを読んで、そう感じた。でももし、「おれ(わたし)の親はスズメバチに殺された、あいつらを絶対に許さない、一匹残らずこの世から駆逐してやる、見つけ次第逐一躊躇なく駆除してやる」といったような書き込みをネット上で見かければ、う…うん、とそっとしておくだろうが。

(成城比丘太郎)


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