- コラム(011)
- 奇想の絵師
- 平成の日本の小説
- おススメ度:★★★☆☆
【戦後のホラー漫画とか】
『戦後怪奇マンガ史』(米沢嘉博・著、鉄人文庫)という、戦後のホラー漫画の通史的な本を、ここ最近パラパラめくりながら読んでいる。ここには戦後のホラー漫画家とその作品について載っているのだが、その多く(というかほとんど)は、昭和のものばかり。で、ふと思ったのだが、平成に入ってからのホラー漫画家のことをほとんど知らない。読んだことがないわけではないけど、全く知らないといっていい。平成のホラー漫画については何も語れないのが分かった。まあ昭和のもよく知らないけど。
ところで、今年は手塚治虫の没後30年だが、本当に、はやく亡くなったのだなというかんじ。現在どろろの新アニメやっているけど、なんというか全く怖いところがない。それに今見ると、歴史観とかにおかしなところもあるし。まあ、それはそれとして、手塚治虫は日本の漫画界に多大な影響を与えて、なおかつ日本のテレビアニメ業界にもあまりよいとはいえない影響を与えた。
手塚は平成に入ってすぐに亡くなったのだが、その一方、平成に入っても元気だったのが、水木しげる。彼の故郷の境港は、おそらく山陰地方の中でも随一といえるくらい、妖怪の雰囲気に薄い地域なのだが、今一番妖怪で盛り上がっている。というか、水木しげるがいなければ、自衛隊機が上空を飛ぶだけのロシア船も訪れる単なる港町でしかない。もちろん鬼太郎空港なんて名前も付かないし、水木しげるロードもないし、もしかしたら隣の米子市に編入されていたかもしれない。
その水木しげるの画集みたいなものを昔から見ているけど、手元に置いて時に眺めている平成に出版されたものは、岩波新書の妖怪画談や妖精画談とか河出文庫の妖怪文庫といったあたり。とくに岩波のやつはフルカラーなので、妖怪たちの奇妙さもさることながら、背景の描きこみがすごい。まさに、昭和平成の奇想の絵師といっていいのかどうか分からないけど、そんなかんじがする。
【奇想について】
さて、奇想というと、名著奇想の系譜の中で、辻惟雄は国芳までをその範囲に入れているよう。最近、なぜか若冲の時代に関する色んな本が出版されていて、図書館でそれらを借りてきて眺めていたりしてるが、なんでかなと思ったら、今東京で奇想の系譜展が開催されてるみたいだ。なんだ東京だけか、と思ってたら、4月から神戸で河鍋暁斎没後130年の展覧会があるではないか、これは観に行きたい、というかほとんど観に行く方向で身体は前のめりになっている。まあ、奇想の系譜には入らないけど、暁斎は国芳にならったことがあるから、まあ奇想の部類に入るだろう。
【平成の日本の小説20冊】
今ツイッター上で、平成の30冊なるものがあって、盛り上がっているのかどうか分からないけど、なんかおもしろそうなので参加したいと思ったが、それだけのためにツイ垢とるのもメンドイので、このブログに自分なりの日本の平成小説を書き出します。一応平成時代ということで、日本語で出版された日本語小説を中心に。ちょっと考えたところ、ここ最近のエンタメ系小説を全く読んでないことに気付いた。なので、ほとんどが平成の初期のもの。
・神坂一『スレイヤーズ!』
[平成の幕開けとともに登場したラノベの元祖。もちろん、これ以前にもラノベやライトな小説はあったけど、これは何か違った気がした。ラノベの文体を用いて大ヒットさせた最初の本ではないだろうか。平成の30年間は間違いなくラノベというレーベルが大躍進した時代。その嚆矢となった小説]
・村上春樹『ノルウェイの森』
[厳密に言うと、平成に出版された小説ではないけれど、平成に入ってからの春樹ブームに火をつけた小説。あまりにも話題になりまくったので、それに反発して長らく本書を読まなかった]
・安部公房『カンガルー・ノート』
[本当は方舟さくら丸にしたかったが、平成からちょっと離れた時代のものだった。想像力は平成の時代に近いが。というか、春樹と同じようにノーベル賞候補になったといわれるが、平成の公房の作品には見るべきものがない。あと10年生きていても大した作品書けなかったのではなかろうか]
・奥泉光『葦と百合』
・綾辻行人『霧越邸殺人事件』
[こういうミステリが好き。綾辻のものは、黒死館や虚無への供物や匣の中の失楽の衣鉢を継ぐものかどうかわからないけど、こういうのもっと読みたい]
・京極夏彦『狂骨の夢』
[なんだかんだ言って、最初期の京極はおもしろかった。とはいえ、それは読んだときの私が若かっただけだから、かもしれないけど]
・中島らも『ガダラの豚』
〔平成のエンタメ小説で一番面白いのではないだろうか〕
・小林恭二『ゼウスガーデン衰亡史』
・伊井直行『濁った激流にかかる橋』
・阿部和重『シンセミア』
・桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』
・津村記久子『浮遊霊ブラジル』
〔これらは、海外文学の影響を強く受けて書かれたと思われる作品。まあ、そうではない日本の小説はないと思うが。小林恭二のものは、厳密にはギリギリ昭和の発表だけど、収録されている続編の「ゼウスガーデンの秋」は平成の発表だったし、この作品自体が平成の出来事を予見していた。とくに2012年に大地震が起こるとか。他の作品についていうと、桜庭一樹のものは舞台が鳥取なので入れてみた〕
・高橋源一郎『日本文学盛衰史』
〔日本の文学は、ある意味私小説の歴史なのかもしれないけど、この作品のように、自らの身体を内側まで、文字通りの意味でさらけ出した私小説作家はいないだろうなぁ。いいのかわるいのかわからんけど〕
・笙野頼子『なにもしてない』
〔なにもしてないことのおそろしさ、このシンプルさはもはやホラー〕
・多和田葉子『飛魂』
〔山尾悠子と読み比べてみたい一品。なんというか、平成の日本幻想文学では一番じゃないかと思わないこともない〕
・古井由吉『楽天記』
〔平成初期の古井由吉が、一番脂がのっていたようなきがする。そのなかではこれが一番〕
・後藤明生『首塚の上のアドバルーン』
〔平成に入ってからも小説の可能性を追求した作家〕
・大西巨人『五里霧』
〔平成に入ってからも、晩年まで精力的に執筆活動を続けた作家〕
・円城塔『文字渦』
〔平成ラストに出た日本SF文学のいちおうの到達点〕
・永井均『翔太と猫のインサイトの夏休み』
〔哲学者が書いた哲学小説〕
以上20冊になった。何か他に書き洩らしているものというか、他にも思いついた最近のものはあるけれど、なんかここ10年の日本文学にはパッとしたのがない。たぶん受容する方の問題だと思うけど。
さて機会があれば、小説以外のものや、競馬やアニメもやってみたい(予定は未定)。
(成城比丘太郎)