- 「栗本薫」が登場する、南島でのクトゥルー作品
- ライトなエンタメで、とくに怖くはない。
- 「グイン・サーガ」の着想を得たという記念碑的作品
- おススメ度:★★★☆☆
これまた、『All Over クトゥルー(Ama)』を読んでいて、本作のことも載っていたので読んでみました。それについて書く前に、ちょっとだけ先述の「クトゥルー本」について。巷では(?)あまり評判はよろしくない。たしかに、編集作業がいっぱいいっぱいだったためか、創作物がどういう順番で並んでいるのか分からないし、索引も付いていないという不親切。これが、1,500円くらいなら特に文句はないのですが…(だから、とくに買わなくてもよかったかな、と)。あと、評論などのタイトルだけでも載せてくれたらよかったのになぁ。これについては、続編があれば期待したい。まあでも、知らないコミックとかあるのでおもしろかったが、ちょっと網羅しすぎの感もある。少なくとも、現代のホラー作家はもとより、一般小説の作家でも、クトゥルー神話に(良くも悪くも)影響されたということはよく分かる。ここに載せられていなくとも、そういう作品もあるのでしょうね。
さて、その『AllOverクトゥルー』にこの『魔境遊撃隊』の項目があり、はて、これはどのような話だったかなと、ケースにしまってあった本書を取り出してちょっと読みだしたところ、これは読んだことがあるはずなのに、まったくその内容は忘却の彼方であることが発覚し、でもなんとなく覚えているなぁと、読み続けていたら、あっという間に読み終わっていました。なぜかというと、おそろしいほどに栗本薫節のオンパレードで、どこかで見たフレーズばかり。しかも、流れるように書いているので、読むほうはその流れに何のストレスもなく漂っていける。それはしかし、この作者のことだから仕方ないのですが。
物語の中身は、作家として活躍している(?)栗本薫(=男性)が、友人に半ばだまされて、南洋のセントジョセフ島へと冒険行にでるというもので、それ以外にはとくに書くことはありません。その栗本薫くんは、おそらく「ぼくら」シリーズの主人公ではあると思います。ちょうどオカルト作品(『魔界水滸伝』のことでしょう)を発表していた栗本薫は、オカルトに通暁したところと自身のもつ第六感(と推理探偵的なところ)をみこまれて、冒険への同行を依頼されます。
その依頼をしたのは、印南薫という、同じ薫という名前を持つ、美少年です。このもう一人の薫は、作者である栗本薫のペルソナであり、また、作中栗本薫(=ホームズというあだ名をもつことになります)との(自己)対話相手になっているようです。ホームズの薫は、この印南薫のナイトとして、彼のことを守るという役目を自ら負います。しかし、島に住む謎の美少女メナという存在のおかげで(?)、単なるBLものに陥るのを妨げています。
島へ共に行くのは、二人の他に、剣士の秋月慎吾、雷電博士、鮫島日光・月光兄弟(こいつら、なんか戸愚呂兄弟みたい)、印南薫の使用人の合計七人です。彼らが赴いた島で待ち受けていたのは、数人のあやしげなイギリス人たち。島にある謎の巨石群とは何か。印南薫を付け狙う月十字団とは何か。島に住まうガンボバ族とは何か。その他にも、前半では謎があれこれ出てきて、それなりに冒険ものの体は保っています。
後半である第二部になると、一応クトゥルー関連の恐怖は出てきますが、まあそれほどではありません。クトゥルーに関していうと、『魔界水滸伝』というフィクションに書かれたことが、実は現実の世界で起こっていたという、よくあるクトゥルーものの形をとっています。それ以外では、まあ、何というか、小栗虫太郎、夢野久作あたりを模して書かれたという本作は、残念ながら異境冒険ものとしてはイマイチです。ただ、唯一、「グイン・サーガ」執筆の着想をある壁画から得たというところは興味深いですし、剣士の秋月をモデルにイシュトヴァーンを思いついたというのもまた、なんかそんなかんじだなぁと思った次第ですね。
(成城比丘太郎)