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★★★☆☆

魔法使いの弟子 (ジョルジュ・バタイユ[著]・酒井健[訳]/景文館書店) ~紹介と考察

投稿日:2017年7月25日 更新日:

  • バタイユの「恋愛論」についての感想。
  • 失われた実存の総合性を回復させるものとは。
  • デュカスの同名交響詩に少し触れられている。ちなみにダンセイニの小説とは関係ない。
  • おススメ度:★★★☆☆

(編者注)本の紹介文をまず転載します。

ジョルジュ・バタイユの恋愛論。「聖なるもの」を求めて、ミシェル・レリス、ロジェ・カイヨワとともに〈社会学研究会〉を立ち上げたバタイユ。恋人・運命・偶然・共同体・神話……これらの概念を交差させ、失われた実存の総合性への回帰を探る。

さらに、目次も引用します。

1 欲求がないことは満足がないことよりも不幸だ
2 人間でありたいという欲求を失った人間
3 学問の人間
4 フィクションの人間
5 行動に奉仕するフィクション
6 行動の人間
7 行動は、人間の世界によって変えられ、この世界を変えることができずにいる
8 分裂する実存
9 完全な実存と、愛する存在のイメージ
10 愛する存在の幻影的な特徴
11 恋人たちの真の世界
12 ひとまとまりの偶然
13 運命と神話
14 魔法使いの弟子

(以下、本編)

バタイユのいう「実存」とは、「「今ここで生きている」という人間の生の現実、あるがままの人間の生のあり方を指し」、「人間の運命と密接に関わっている事態として説明されている」。さて、人間がそれに気付かぬまま、自らの実存を、それがもつ全体性(「完全な人間」)から剥落させられる、そのような進行性の病が人を襲うとき、人は「身体の損壊」を断片として、結果的に受け入れざるを得なくなるのだろうか。いや、違うだろう。そもそもそのような人間は、もとより生への欲求を失っているのだろう。

「人間でありたいという欲求を失った人間」とは、生のもつ完全さを味わわずに生きる。それは、「芸術」や「学問」や「政治」という、ある意味タコツボの中で、暗いベールをまとい、真の実存の重みに耐えきれずに、それから逃れたもののような気もする。人間がそれらひとつひとつの「機能」に奉仕することで、本来なら部分の真理だったものが、その主人にとって変わってしまっている。

「フィクション」として提起される「芸術(絵画)」や「小説」は、「芸術の召使いたち」によって、形式的な「実存」をその中の人物に「幻影」として与えるのだが、受容者がその「虚偽」に気付くとき「幻影」が暴かれる。だから、「芸術」や「文学」は、時に「現実に従属し」延命を図るが、人間が心揺さぶられる契機に出会うことで、生みだされるものがある。この辺りは、どうでもいいかもしれないが、ひとつの芸術論としてみられる。

実存をやめてしまって、三つの断片(芸術、学問、政治)になってしまうのに陥らずにするには、どうするのか。「生とは、生を合成する諸要素の雄々しい一体性」であって、その生を回復するのは、《愛する存在》である。しかし、気をつけなければならないのは、愛する存在(ひと)の幻影的イメージが、そのイメージを抱いた人を、その(何の役にも立たない)虚しさゆえに恐れさせることである。

「唯一恋人たちの合意だけが、賭博者たちの卓上での合意のように生き生きした現実を創造する」。「孤立した個人には一つの世界を創造することは絶対にできない」からだ。賭博のもつ偶然性に己を任せてこそ、そこに一切の「イカサマ」(=「事前の調整」)がないことこそ、ゲームのギャンブル性は、ある運命の一撃をもって人に「実存」を生きさせる。同じように、恋人たちの「素朴な無意識」からくる、偶然の奇蹟の出会いもまた、運命の偶然性を際立たせることになり、より一層所有への意志を抱かせる。「生は自らを賭ける」ように、恋愛も賭けることができるのだろうか。

おそるべき運命(の出会い)の鉄槌に賭けようと飛びこめるか。幻影を真なるものとして受けとめられるか。勘違いされた恋愛の純粋さと、裏返しされた不純とを合わせて、全き「夜の世界」に一つの際限のない生の総合性(一体性)を見出せるのか。しかし、恋愛では社会を変えることができないので、共同体の所有する実存へと人々を導く「神話(=「総合的な実存の感性的な表現」」へ、その解決を求めることになるのだが。

タイトルの「魔法使いの弟子」は、ゲーテの詩からとったデュカスの交響詩よりとったもので、それについては、最終節に少し述べられている。「訳者あとがき」にその内容が詳しく書かれている。この「あとがき」は解説ともいうべきもので、訳者のバタイユへの愛が感じられて非常に良い。本文を読む前にこちらを読んだ方が良いかもしれない。

(成城比丘太郎)


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