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★★★☆☆

黒猫・黄金虫 (エドガー・アラン・ポー/新潮文庫)~概要と感想

投稿日:2017年10月19日 更新日:

  • クラシカルなホラー・幻想譚・探偵小説
  • 名前だけ知っていて読んでいない系作家の一人
  • 後世への影響力を垣間見る短編5つ
  • おススメ度:★★★☆☆

前日の記事が「乱歩と正史」というのは、全くの偶然だが、江戸川乱歩がエドガー・アラン・ポーから取ったペンネームであることは有名だろう。2017年現在、アニメが公開されている「名探偵コナン」も主人公が「江戸川コナン」で、エドガーにコナン・ドイルが混じっている。そんなこんなで、現代でも深く名前が知られている割にはその作品自体は(コナン・ドイルのシャーロック・ホームズなどに比べ)有名でない気がするポーの短編集。私も多分、初めてちゃんと読んだ。

古すぎて絶版になっているようだが、それもそのはず、初版が昭和26年となっている。新潮社は装丁と構成を変えて、黒猫を収録した本を出版しているが(上記参照)、そもそも古すぎてパブリックドメイン化しているので、後で青空文庫版もリンクを貼っておく。何しろ、解説を読むとマーク・トウェイン(トム・ソーヤの冒険)やヘミングウェイの先輩にあたると書いてある。何と1809年生まれの1849年没(享年40歳)で、100年どころか200年以上前に生まれた作家である。そりゃ古いはずだ。

前置きが長くなったが、本書には「黒猫」以外にも、「アッシャー家の崩壊」「ウィリアム・ウィルスン」「メールストロムの旋渦」「黄金虫」の4編が収録されている。いずれ劣らぬクラシックな味わいだが、それぞれ個性的な作品で、ざっと内容を紹介したい。

表題作の黒猫は、ひょんなことで黒猫を殺した「温厚な」主人公のたどる悲劇。全体的に陰鬱かつ幻想的で、ラストの強烈なイメージが印象に残る短編。「アッシャー家の崩壊」は、これも精神的・肉体的に病んだ友人の最期をみとる男の陰鬱な物語で、ストーリーよりもその幻想怪奇的な雰囲気を楽しむような小説。「ウィリアム・ウィルスン」は、自分に似た人物に追われ続けるという小説で、自分の善性と悪性の対決という抽象的なテーマが織り込まれているがちょっとわかりにくい。「メールストロムの旋渦」はかなり明快なお話で、要は大渦に巻き込まれた人間がどうやって助かったかを詳細に語るという一作。描写が具体的で迫力があり、書かれた年代を考えると高く評価されたのも良く分かる。因みに今はこの様子は映画などでもよくあるシチュエーションだ。最後の「黄金虫」は探偵小説の開祖的扱いだそうだが、なるほど、他の4作とは作風が違い、陰鬱さはやや影を潜め、暗号の解読など、当時としては斬新な趣向が盛り込まれている。物語はある島での宝探しというシチュエーションで、謎解き部分が山場となっている。

読みやすいのは、最後の2編だが、やはりホラーとして印象深いのは「黒猫」だろう。その何となく不条理な展開といい、不気味なラストといい、独特の味わいがあ。ただし、やはり時代性もあると思うが、今風のエンターテイメント小説をイメージするとちょっと違う。かと言って200年という歳月を感じるほどでもなく、やはり語り継がれるだけのことはあると思える。

乱歩も正史もちょっとしか読んでいない私も言うのもなんだが、幻想・怪奇・探偵小説の源流として、後学のために読んでおいても損はないという感じだ。

余談だが、ポーは生前、作家としてはそこそこ評価されていたものの、まだまだペン一本で食うには大変な時代だったらしく、詳細は不明だが、最後は貧困の上、泥酔して亡くなったらしい。時代性と言えばそれまでだが、死後に大きく評価される作家には複雑な感情を抱く。死後に評価されない作家も多数いるわけで、結局、作家は自分の作品世界に生きるべきで、それで「食える」かどうかは、また別問題とすべきだろうか? その死も含めて幻想的なポーの作品も機会があればご一読を。

(きうら)




-★★★☆☆
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