- 至極真っ当な事件小説
- 一つの殺人の裏側を探る
- 2時間ドラマのようだ
- おススメ度:★★☆☆☆
(本文の推敲を何度しても面白い文章にならなかった。力不足を実感する)
どうも本作はシリーズもので第2作目のようなのだが、間抜けな私はなぜか本作から読み始めた。そのため、何となくキャラクターの描写が薄いと思ったが、余り違和感はなかった。
(あらすじ/公式より転載)住宅街で起きた大学生撲殺事件。不可解な点を残しながらも、目撃証言と凶器に残った指紋から犯人は確定したかに思われた。しかし、海水浴場での溺死事件と連続婦女暴行事件との奇妙な繋がりが判明し……。
話の核となる殺人事件の真相は懐かしさを覚えるほどありふれたものだ。登場人物もそつなくまとまっているが、これといった強烈な個性はない。ラスト付近のオチも少々強引だと思うし、リアリティ的に不満が残る。
とはいえ何となく最後まで読めてしまうくらいに読みやすいし、話に起伏が無いかと言えばそうでもない。トリックを捻り回したミステリではないし、人情もののように湿った描写もない。実にあっけらかんと事件は解明され、悪は滅びるのである。
こういう小説は余り深読みせずに、その場面の展開を楽しんで読むのが正解だろう。感動はしないが、最後まで読んで嫌な気分になることもない。何と言えばいいのか、これほど普通の事件小説も珍しいのではないだろうか。
とはいえこれだけでは読んで無くても書ける感想なのでネタバレ含め以下、もう少し掘り下げたい。
(核心のネタバレあり)
黙秘を続ける男・倉田の動機が読者にとって理解できるかどうかスレスレのラインだ。両親の突然死、辛く当たられる親戚の家での生活、そして、実の妹がその家の息子から性被害を受けている。それを止められ無かった悔恨。その贖罪のため、誰かを助けるために不条理に耐えるという設定。腕のいい長身の板前という設定で、過去に傷害事件を起こしている。これも人を庇ってのことで実際に犯罪は犯していない。
ヒロイン的な位置づけは旅館の娘・杏子。結婚が決まっているが、最近弟を事故?で亡くしている。旅館の存続を第一に考え、多少結婚相手の性格に疑問があっても結婚に踏み切ろうとしている(相手は金持ち)。もちろん、美人の設定だ。
オチを書いてしまうと、ある代議士のドラ息子が、友人と結託して、今で言う睡眠薬レイプを繰り返していた。彼らにパシリにされていたのが、旅館の弟で、睡眠導入剤の買い出しなどをさせられていた。
その弟を殺したのも、姉を襲ったのも彼らである。最初は覆面で襲おうとして倉田に阻止される。2回目は犯人の仲間が酔って姉と遭遇し、再び声をかけたことから「声音」から正体がバレ、杏子にワイン瓶で返り討ちにされ殺される。なぜかその場に居合わせた倉田がその罪を被り、黙認に至る。主人公格の刑事とその相棒、さらに所轄のベテランと若い女性警官のコンビが主に捜査を進め、レイプ魔のドラ息子の罪を暴く。代議士は警察に手を回して圧力をかけたり証拠隠滅まで行う。
最後の方が刑事と犯人との掛け合いになるのだが、いくら変態とはいえ大学生なので、何となく迫力が無かったりする。
ここまで書いてみるといくつか気になることがある。
旅館の姉弟の仲は悪くないのに、弟は姉のレイプ事件に手を貸しているのである。姉を喫茶店に呼び出したのが弟なのだ。気が弱くて趣味がプラモデルのアルバイト、という設定からは少々不自然だ。
また旅館の主人は警察にも反抗的で、小さい頃は息子に暴力を振るったりして悪役のようである。
ヒロインである姉が明るい母親を庇うのは分かるとして、この父親との関係性が薄い。何となく違和感があるのはそのせいである。また倉田に助けて貰っているのはいいとして、それが結婚相手からの実家への援助が欲しいから、という理由なのはひどい。
こう並べてみると、守る側と守られる側の感情に違和感があるのだ。
普段なら酷評しているような点だが、本作はそれを知っていても何となく読めてしまう。捜査の様子が比較的面白いからかも知れない。レイプ魔が犯人だが、性的描写はほぼない。いじめもテーマだがその場面は描かれない。
ホラー小説サイトでこんなことを書くのもどうかと思うが、暴力や虐待といった描写がほとんどないか、あってもかなりの薄味なので、安心して物語(捜査)に集中できる。もちろん幽霊など出てこない。
要するにひたすら現在に沿って話が進行していくのである。この点が読みやすい原因かも知れない。手元に一作目が有れば続いて読んでいる気がするが、かと言って今から買おうとも思わない。
実に中庸な感想だが、実際にそう思って読んでいた。たまにはこんな娯楽読書もいいのではないか。
やはり煮え切らないなぁ。
(きうら)