- 謎の風土病がテーマの伝奇ミステリー
- 恋愛・歴史要素あり
- 謎解きはあっさり。
- おススメ度:★★☆☆☆
その谷に住む住人は「いきなり病」という正体不明の風土病によって、次々と死んでいく。その原因はいったい何なのか? 大学の夏休みに実家に帰った主人公・帯金多江は自らの故郷に潜む謎に挑む、という魅力的な設定の伝奇ミステリー。
文章は読みやすく、謎解きもストレートで、グロテスクな描写も控えめ。発表が1982年なので、大学生の描写がいささか古く感じるが、そもそも舞台となる鬼兵衛谷はかなり古風な風習が残る地域として描写されるのであまり気にならない。しかし、物語の焦点となる風土病の謎解きはあっさりしており、主人公の恋愛関係の描写が多い部分が、物足りなく感じる。
惚れた腫れたはどうでもいいので、もっと風土病の核心に迫ってほしい、というのが正直なところ。読み終えると「その部分」が不可欠なのも理解できるのだが……。女性作家の描く恋愛観がよく出ているので、女性が読むとまた違った印象を持つかもしれない。
ちなみに本書は1971年の第17回江戸川乱歩賞最終候補作とのことだが、当時タブー視されていた「部落問題」がテーマだったため、受賞を逃したらしい。また、1989年にフランスで消息不明となっているとのこと(Wikipediaより)。興味深い。
(きうら)
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