- 悪夢をテーマにした短編集
- 興味深い設定で文章も読みやすい
- 話のオチには物足りなさを感じる
- おススメ度:★★★☆☆
目が覚めると、全身が動かず、おまけに目も見えない。医者の説明によると、全身複雑骨折で、失明までしているという。自分でも事故にあった記憶はある。しかし、本当にそんな大怪我なのだろうか。痛みは感じないし、どうもグルグル巻きにされた包帯の隙間から、明かりが見える気がする。それに、ここはどう見ても病院とは思えない。そもそも、この男は本当に医者なのか?(ブラックライト)。
と、いう興味深い設定から始まる一編のほか、盗聴に取り憑かれた男や自称「吸血鬼」の物語など、日常と非日常を行き来する不思議な物語がこの「あくむ」には五編収められている。テーマはもちろん「悪夢」で、表紙裏には「ホラーストーリー」と紹介されるが、どちらかというとサイコ・サスペンスだと思う。
設定も面白くスラスラ読める小説だが、僕は非常に不満に感じる点がある。冒頭紹介したような思わず引き込まれる出だしは各話共通しているが、オチが全部同じに思えるのだ。詳しく書くと興が削がれるが、すでに「あくむ」というタイトルからもネタばれしているような気もする。
せっかくの面白い設定なので、もう一ひねりして意外なオチをつけて欲しいとも思うう。ただ、無理やり奇抜な結末を用意していないので、全体の読み口は悪くない。この辺は好みによるだろう。そういえば、阿刀田高氏(Wikiリンク)の作風を思い出す部分もある。
(きうら)
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