- 作家人が非常に豪華
- ホラーと言えない短編もあり
- 編集者である村上龍氏の短編は強烈
- おススメ度:★★★☆☆
本作は、村上龍の編集によって別々の作者による短編が9つ収められている。作家陣が豪華で、編集者自身をはじめ、村上春樹、山田詠美、椎名誠、原田宗徳、景山民夫、森瑤子、連城三紀彦、吉本ばななという錚々たる顔ぶれ。ただし、書下ろしは景山民夫のみで、他の作家はすでに発表済みの短編から集められている。
この一冊は短編ホラー集とは銘打ってるが、非常にホラーの捉え方が多彩、あるいは曖昧だ。私の基準でホラーだと思えるのは、一風変わった学校の怪談を語る「鏡/村上春樹」、物に憑いた怨念が引き起こす悲劇「植えたナイフ/原田宗徳」、霊視者の困惑をややコミカルに描写する「葬式/景山民夫」ぐらいだ。一方、サスペンス的な要素が濃いのは、官能的な雰囲気で記憶喪失の謎が語られる「ひと夏の肌/連城三紀彦」、エレベーターでの密室劇「箱の中/椎名誠」、過激なSM倶楽部の恐怖を描く「ペンライト/村上龍」です。
残り3名は女性作家ですが、「桔梗/山田詠美」は大人社会の恋愛模様を哀しみを持って見つめた内容で、「海豚/森瑤子」はイルカを食べたことに対する罪悪感の記憶、「らせん/吉本ばなな」に至っては、完全にいつものばなな節の恋愛小説だ。
「ペンライト」などは、村上氏の作風である非常に不快&えげつない表現が特徴だが、全体的にそれほど怖くはない。それぞれの作家は一時代を築いた方ばかりなので、決して途中で投げ出すほど退屈ではないが、かといってそれぞれの作家の最高の作品と言うわけではなく「ホラー入門」と言った位置づけではないだろうか。
こういったバラエティ豊かな短編集を読むと「恐怖とは何か」を考えさせられる。やはり根本は死の恐怖だと思うが、人間が不快に感じることは、悉く死につながっていて、その度合いが強いほど恐怖心という危機回避本能が働くのではないだろうか。そういう意味では、どんなシーンでもホラー要素はあるとも思う。
余談だが、意外と恐ろしい恐怖が「退屈」だと思う。誰にも相手をされず、自分でやりたいことも、興味も無い。これは死そのもの……そういう「恐怖的」小説にも出会わないことを願いたい。
(きうら)