3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★★☆

魔界水滸伝(栗本薫/小学館)

投稿日:2016年12月30日 更新日:

  • クトゥルー神話をモチーフにした壮大な伝奇小説
  • ホラー要素もあるが能力バトル物としても楽しめる
  • 古さはあるが面白さは一級品
  • おススメ度:★★★★☆

今でこそラヴクラフトのクトゥルー神話を扱った小説や漫画は多く存在するが、この作品が発表された1981年では、クトゥルー神話の二次創作的作品の先駆的作品だった。私は当時、この作品でインスマウスやナイアルラトホテップなどの名前を初めて知った。

物語の構図としては、水滸伝のタイトル通り、特殊な能力を持った古来の神々が集結し、侵略者であるクトゥルーの神々と戦うというものである。外伝を除くと文庫本で20冊もある作品であるが、神々が自らの能力に目覚め、異形の神々と戦うさまは王道中の王道といった展開で、絶対に楽しめるはずだ。特に前半の日常生活とクトゥルーの先兵が入り乱れて戦う様は当時かなりのめり込んだ。

残念ながら故人となってしまったが、著者の栗本薫は、デビュー当時は博覧強記の美人小説家という扱いで、知識の幅と量が桁違いで、やっていることは超能力対戦でも、大人も読める深さがある作品になっている。また、多作で知られミステリからファンタジーまで実に多くの代表作がある。その中でも、魔界水滸伝はかなり読みやすい方ではないだろうか。

ただ、栗本薫は、いまでいう「腐女子」の元祖的な存在でもあり、非常にボーイズラブ系の展開を好む。自分で自分の小説のボーイズラブ同人誌を作ったりもしていた。この作品も前半はいいのだが、後半はそういう要素がクローズアップされ、少々煩わしくもあった。とはいえ、未完となっている外伝を除けば、グインサーガほどの破綻もなく、最初の数巻が気に入れば最後まで楽しめるはずだ。もはや伝奇小説の「古典」と化したが、一読の価値は十分にあるだろう。

余談だが、当時の挿絵担当があの永井豪であり、独特且つダイナミックな絵柄が素晴らしかった。リンクに貼ってあるような味気ない表紙ではなく、良くも悪くも素晴らしいインパクトで個人的には表紙だけでも怖かった。もし、可能であれば元の挿絵で楽しんでもらいたい程である。

P+D BOOKS 魔界水滸伝 1
P+D BOOKS 魔界水滸伝 1【電子書籍】[ 栗本薫 ]

-★★★★☆
-, , ,

執筆者:

関連記事

ゴールデンボーイ―恐怖の四季 春夏編 (スティーブン・キング/新潮文庫)

「ショーシャンクの空に」の原作「刑務所のリタ・ヘイワース」を含む中編2本を収録 映画の追体験に最適。ただし、ラストのニュアンスが微妙に違う もう一本の「ゴールデンボーイ」は割と地味なナチスものサスペン …

フォレスト・ガンプ 一期一会 (ロバート・ゼメキス ・監督)

イノセントな男の数奇な人生 人生の残酷さと優しさと ベトナム戦争のシーンが印象的 おススメ度:★★★★☆ 「Run! Forest! Run!」と叫ぶジェニー。走り出すフォレストは、足に矯正器具を付け …

異常心理犯罪捜査官・氷膳莉花 怪物のささやき (久住 四季/メディアワークス文庫) ~ネタバレあり

ライト&ダークな作風 レクター博士in日本の警察 単純に面白かった おススメ度:★★★★☆ 実は別の警察系小説を読んでいたのだが、こちらの方が面白かったので先に紹介したい。 (あらすじ/Amazon紹 …

蔵書の処分と、最近読んだ怪奇幻想もの(成城のコラム-25)

本の処分について 最近読んだ怪奇幻想もの イタリア独自の幻想小説 オススメ度:★★★★☆ 【蔵書家あるある】 年が明けてまずすることというと、蔵書の整理です。断捨離というほどのものではないです。毎年数 …

トロッコ(芥川龍之介/岩波文庫)〜趣向を変えて誰でも書けるオリジナル感想文風(小学生向け・理論編)

名作トロッコの感想を小学生風に これでだれでも「普通」の感想文を量産 さらに「良」をもらえるポイントも解説 おススメ度:★★★★✩ はじめに 読書感想文、それはほとんどの人にとって面倒な障害物に過ぎな …

アーカイブ