- 経済社会の恐怖を描くホラーとして読める文学
- 労働者の凄まじい絶望感を描く
- 後半の展開が性急に感じるが深いテーマ性
- おススメ度:★★★☆☆
ご存知の通り小林多喜二と言えば「プロレタリア文学の代表者」として紹介される著名な作家だ。今回「蟹工船」を読んでみたのは「労働をテーマにしたサバイバル劇と読めるのでは?」と思ったためだった。
その予想通り、登場人物が感じる凄まじい絶望感は、やはりある種の恐怖小説と言える。小説としては導入から途中までは面白かったが、ラストが急に展開しすぎたようには思う。とはいえ、故郷で食いはぐれた貧しい労働者が、不気味な「蟹工船」に乗り込み、過酷な労働に斃れていく様子が鮮やかに描かれてる。
もちろん、プロレタリア文学としての背景も無視することはできず、思想的な部分を抜きにしても、考えさせられる部分が多々ある。「労働とは本当に苦痛なのか」「誰のために、何の為に働くのか」といった、社会人なら一度はぶつかる疑問に対して、ある種の回答も示されている。
以前に紹介した「野火」もそうだが、「文学」という括りに拘らなければ結構面白い小説だ。登場人物に感情移入できないのは辛いが、深く印象に残る一作。こんな時代だからこそ、凍えるような北の海に浮かぶ蟹工船に乗船する気持ちで、一読してみてはどうだろうか。
(きうら)
![]() 蟹工船/党生活者新装改版 [ 小林多喜二 ] |