★★★★★

模倣犯 (宮部みゆき/新潮文庫)

投稿日:2017年1月20日 更新日:

  • 圧倒的な「読ませる力」を持った小説
  • 連続誘拐事件をテーマにした宮部みゆき最大級の力作
  • 深遠なテーマと深い感動を保証する
  • おススメ度:★★★★★

「なんだこれは?」と、第1部の途中で感じた。「これはヤバイ」とも。100Pを超えた途端、物語が物凄いスピードで加速し始め、一部ラストで放心した。決してグロテスクではないのに「ここまで書いていいのか」と、寒気を覚えるような描写。同時に、読者を飽きさせず、まるで小刻みに爆発して加速していくような場面場面の面白さはエンターテイメントとしても最大級の面白さだった。しかし、ここまでなら「火車」と同じ。第2部から、宮部氏は未知の領域に驀進し始める。

物語は、連続婦女誘拐殺人事件が、警察・被害者・犯人の側から群像的に描かれる。しかし、群像と言ってもそれぞれのパートで普通の本一冊分位はあるので、同じ物語が複数の視点で描かれていると言ったほうがいいかもしれない。とにかく、この物量には圧倒される。

2部では犯人の生い立ちから犯行までが描かれる。正直、読み始めてみると一部に比べ(時間軸も戻るので)もどかしさを感じた。しかし、一部で加速した「読みたい気持ち」は簡単には止まらない。そして、徐々に練り上げられていくクライマックスはやはり圧巻。人間の光と影が鮮やかに描かれ、読み進めるのが勿体ないくらいスリリングな「対決」シーンが描かれる。この辺の物語の「タメ」と放出のコントロールが見事だ。

3部は完結編とも言える内容で、普通なら2部で終わっているお話がさらに一回転する。そして明かされる模倣犯の意味。それは表面的な意味合いを越えて、犯人を貫くある一撃になります。3部には展開的に物足りない部分もあるが、とにかくページを繰る手が止まらないのは同じ。

完全なエンターテイメント作品でありながら、非常に深遠なテーマに深く切り込んでいる点で稀有な作品だと思う。いわく「悪」とは何か。純粋な「人間の悪意」とは何なのか。これは現代日本を覆っている言葉にできない「不幸」と同じ源を持つものと思えてなりません。作者は「他者とは違うと思いたい英雄願望」だと看破していましたが、ヒトラーやポルポト、ジョン・レノンを射殺した男や麻原彰晃など、確かに人類を揺るがした悪の根源とはこんなものかも知れない。ひょっとすると、人間は人と違うところではなく、同じ所を探すべきなのかも知れないとも思った。もっと根源的な共通点を。

最初の設定は重く感じますが、その先に底の見えない広大な世界が広がっている。軽い読書には向かないが、宮部氏の筆力に身を任せて垣間見る人間の邪悪と聖なる部分は全ての人にとって何かしらの意味を持っていると思える。

(きうら)


模倣犯(1) [ 宮部みゆき ]


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