- ジャンルが異なる7つの話を収録した短編集
- SF、怪談、スプラッターから、表題作のようなホラー要素のないものも
- スティーブン・キングの作品を一つでも読んでいる方ならおススメ
- おススメ度:★★★☆☆
本作品は、本来「第4解剖室」という作品集と合わせて一冊の本だったようで、こちらは後編に当たるようだ。ジャンル的には短編ホラー集という風になるだろうか。バラエティ豊かな「恐怖」が7編に渡って味わえる。
スティーブン・キングの作品は、多かれ少なかれ大体低俗で反社会的、且つ悪趣味な要素を持っている。これはもう作者本人が「そんなひと」だと思うのだが、これだけでは単なる猟奇趣味のB級作家だ。キングがただのB級作家に留まらないのは、そのどうしようもない俗悪さの中に、あけすけな人間の本性が現れているからだと思う。誰でも持っている人間の「獣的」な側面を極めてオープンに見せてくれる鏡のようなものだ。
本作品では、短編ごとにホラーのジャンルが違う。「なにもかもが究極的」はSF的なある陰謀の話、「L.Tのペットに関するご高説」は夫婦の決裂を描いてるが、結末に不気味な余韻が残る。「道路ウイルスは北に向かう」「1408号室」はどちらかといえば古典的な怪談で、超常的な存在が出てくる。「例のあの感覚……」と「幸運の25セント硬貨」は1アイデアによる一発作品。前者はややシュール、後者はホラー要素の無い話だ。そして、最もキングらしいと思ったのが血みどろスプラッターの「ゴーサム・カフェで昼食を」で、滅茶苦茶すぎて笑ってしまうが、娯楽性は一番だ。
ただ、キング作品を読んでいつも感じる違和感は「絶対悪=サタン」の表現だ。今回の作品でも、絶対的に邪悪な存在が出てくるが、そもそも日本人には絶対悪の観念が薄いと思うので、ピンと来ない部分もある。日本の恐怖の源は相対的なもので「怨念」や「呪い」「無念」などが源になっていると思う。逆にその違和感がキング作品の独特の面白さとも言えるが。
とにかく、一度でもスティーブン・キングの作品を読んだことのある方なら、いつものあの「感じ」が味わえると思う。それは極めてアメリカ的で、決して道徳的に褒められた内容ではないが、まあ、道徳的に褒められた内容のお話は大抵面白くないと相場が決まっているので、やっぱりこっそりと薦めたい。
(きうら)
![]() 幸運の25セント硬貨 [ スティーヴン・キング ] |