3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★☆☆

幸運の25セント硬貨(スティーヴン・キング/新潮文庫)

投稿日:2017年1月23日 更新日:

  • ジャンルが異なる7つの話を収録した短編集
  • SF、怪談、スプラッターから、表題作のようなホラー要素のないものも
  • スティーブン・キングの作品を一つでも読んでいる方ならおススメ
  • おススメ度:★★★☆☆

本作品は、本来「第4解剖室」という作品集と合わせて一冊の本だったようで、こちらは後編に当たるようだ。ジャンル的には短編ホラー集という風になるだろうか。バラエティ豊かな「恐怖」が7編に渡って味わえる。

スティーブン・キングの作品は、多かれ少なかれ大体低俗で反社会的、且つ悪趣味な要素を持っている。これはもう作者本人が「そんなひと」だと思うのだが、これだけでは単なる猟奇趣味のB級作家だ。キングがただのB級作家に留まらないのは、そのどうしようもない俗悪さの中に、あけすけな人間の本性が現れているからだと思う。誰でも持っている人間の「獣的」な側面を極めてオープンに見せてくれる鏡のようなものだ。

本作品では、短編ごとにホラーのジャンルが違う。「なにもかもが究極的」はSF的なある陰謀の話、「L.Tのペットに関するご高説」は夫婦の決裂を描いてるが、結末に不気味な余韻が残る。「道路ウイルスは北に向かう」「1408号室」はどちらかといえば古典的な怪談で、超常的な存在が出てくる。「例のあの感覚……」と「幸運の25セント硬貨」は1アイデアによる一発作品。前者はややシュール、後者はホラー要素の無い話だ。そして、最もキングらしいと思ったのが血みどろスプラッターの「ゴーサム・カフェで昼食を」で、滅茶苦茶すぎて笑ってしまうが、娯楽性は一番だ。

ただ、キング作品を読んでいつも感じる違和感は「絶対悪=サタン」の表現だ。今回の作品でも、絶対的に邪悪な存在が出てくるが、そもそも日本人には絶対悪の観念が薄いと思うので、ピンと来ない部分もある。日本の恐怖の源は相対的なもので「怨念」や「呪い」「無念」などが源になっていると思う。逆にその違和感がキング作品の独特の面白さとも言えるが。

とにかく、一度でもスティーブン・キングの作品を読んだことのある方なら、いつものあの「感じ」が味わえると思う。それは極めてアメリカ的で、決して道徳的に褒められた内容ではないが、まあ、道徳的に褒められた内容のお話は大抵面白くないと相場が決まっているので、やっぱりこっそりと薦めたい。

(きうら)


幸運の25セント硬貨 [ スティーヴン・キング ]


-★★★☆☆
-, ,

執筆者:

関連記事

念力―超能力を身につける九つの方法(桐山靖雄/徳間書店)※絶版本

呪いの実践教科書 かなり古い本 効果は? 推して知るべし おススメ度:★★★☆☆ 本棚を漁っていたら、かなり怪しい本が出てきた。なんと1973年初刷で、1987年の第40刷を持っている。前に「呪いの恐 …

百年前のバルセロナで何が起こっていたのか

悪女(マルク・パストル、白川貴子〔訳〕/創元推理文庫) カタルーニャを知る事典(田澤耕/平凡社新書) 死体泥棒(スティーヴンソン、吉野由起〔訳〕/集英社文庫ヘリテージシリーズ『スティーヴンソン』より) …

ハラサキ(野城亮/角川ホラー文庫)

記憶を一部欠落した女性。 迷い込んだ異空間で起こるおそろしい出来事。 ミステリーの要素もあります。 おススメ度:★★★☆☆ 以前旧サイトの、「勝手に新刊予想」というコーナーにて紹介された本を読んでみま …

劇場版メイドインアビス 深き魂の黎明(原作:つくしあきひと/監督:小島正幸)完全ネタバレ紹介~第2期もほんの少し

かなり過激なファンタジー 第一期の完全な続編 R15+という内容 おススメ度:★★★☆☆ 詳しくはアニメ第一期の紹介を参照頂きたいが、丸くて柔らかい絵柄で過激な冒険ファンタジーが描かれる。今風の深夜ア …

書物と電気自動車について(成城比丘太郎のコラム-03)

書店のディスプレイは編集力の見せ所? 「千夜千冊」の再編集? 本と自動車産業の未来を横断的に語りたい(無理) おススメ度:★★★☆☆ 4年に一度おこなわれるものとはなんでしょか、と訊いたとしたらおそら …

アーカイブ