- 「嗤う伊右衛門」に続く古典怪談の京極風リメイク
- インパクトはないが、ダメな主人公を魅力たっぷりに描く
- 残酷描写は軽めで読みやすい
- おススメ度:★★★☆☆
四谷怪談を再構築した「嗤う伊右衛門」に続いて、古典を京極風にリメイクしたシリーズの第2弾。今回の原典は山東京伝の「復讐奇談安積沼(Wikipedia)」とのことだが、四谷怪談ほどメジャーではなく、私も含めほとんどの読者は京極夏彦のオリジナル作品として読める。
内容は妖怪大好き・残酷物語が大好きな京極氏ならではの一風変わった時代劇で、人間の心の暗部を描き、それに妖怪要素を持ってくると言う異色な作風だ。あらすじは、押入れ棚に引きこもる売れない役者の小平次は、妻に罵られながらもその生活から抜け出せないが、そこへ幽霊役の仕事が舞い込んでくる。ただ、それには裏があった……というもの。
作者は「世界からはみ出した者」に対して愛情を注いでいるようで、今作品の主人公である小平次も、京極堂シリーズの関口のような「発狂寸前の落伍者だけど、他人には無い存在感のあるキャラ」として描かれてる。京極夏彦の作品の魅力は、多分この異質な者に対するねじくれたある種の愛情にあると思う。人が誰でも持っている疎外感や孤独感。それに対して、明るく楽しい、爽やかで正しい物語は無力な場合もある。混沌とした暗さの中から生まれるものもあると、読後に感じた。
怪談としては残酷描写も軽めで、どちらかと言うと「ぞくり」と来る怖さを追求してる。怖さと言う点ではイマイチだが、一筋縄ではいかない、不思議な読後感がある。「自分は世間から受け入れていない」と、どこかで思っている方なら、むしろ癒されるのではないだろうか。
(きうら)
![]() 覘き小平次 [ 京極夏彦 ] |