- オーソドックスな密室物ミステリ
- ホラー要素はほぼ皆無。主役たちの推理を楽しむ。
- 女性キャラクターへの共感度はは低い
- おススメ度:★★★☆☆
物語のジャンルはいわゆる密室物のミステリ。あらすじとしては、暗証や監視カメラ、監視する人間など、厳戒なセキュリティ網を突破し、ある会社の社長が「撲殺」される、その凶器と殺害方法を探るオーソドックスな展開だ。この作品の特徴は、主人公役が女性弁護士と鍵など知識に詳しい「防犯コンサルタント」のコンビというところか。
作者はホラー・サスペンスを得意としているが、今回は全くホラー要素のない「密室もの」と呼ばれる推理小説だ。個人的には、いわゆる「本格」と呼ばれるミステリーは苦手だが、密室トリックを貴志流の味付けで一気に読ませてくれる。
ポイントは、「防犯探偵」「奇抜な殺害方法」「犯人側の叙述」だろうか。詳しく書くとネタバレになるので控えるが、防犯のノウハウ部分だけでも面白く読める。ただ、犯人側の事情を詳しく描いているのが作者のこだわりだろうが、それでもちょっと中途半端にも思えるのが残念。また、探偵のキャラクターは面白いが、ややステレオタイプなキャラクター設定の女性キャラに好感が持てない。
貴志裕介氏の特徴として「読みやすい文章」「面白いテーマ設定」「しっかりとした取材」「ちょっとオタク風味」にあると思う。特に「気がつくと100ページ読んでいた」という筆力は抜群だ。テーマの面白さとあいまって、一度読み始めると止まらない作品がほとんど。
そういった他の作品と比べると、没入感はいまひとつだが、それでも200ページを越えたあたりから、最後まで一気読みしてしまった。作者の他の作品をひとつでも読んでいて、の作風に惹かれる所があるなら読んで損はないだろう。もし、一作も読んでないのなら、「黒い家」や「新世界より」の方がよりおススメだ。
蛇足だが、防犯探偵の姿の描写が「繊細で色白」と言う描写にもかかわらず、途中から柄本明の顔が浮かんで仕方なかった。苗字の読み方が同じだけなのだが……。
(きうら)
![]() 硝子のハンマー [ 貴志祐介 ] |