- 毒をテーマにミステリ寄りの展開
- 全体的に薄味の内容で、物足りない
- 続編は現段階でやはり未定。詳細は下段参照
- おススメ度:★★★☆☆
2017年現在、京極夏彦のデビュー作「姑獲鳥の夏」から長編8編、短編集5編が発刊されている「百鬼夜行シリーズ」の長編最新刊に当たる本作。とは言え刊行は2006年。ファンの間では、長編の続編が出るのかどうかが長年話題になっているが、それも含めて紹介していきたい。
本作も、第二次世界大戦後の東京を舞台に、怪しい出来事といつもの妖怪のエピソードが交わる構成で、ホラーというよりはミステリ寄りの構成だ。「毒」をテーマに榎木津、益田、関口、京極堂などのいつもの登場人が活躍する。
ここまでこのシリーズを読み続けたきたファンにとっては詰まらない作品ではないが、期待していた程の感動も味わえない、というのが感想だ。物語の構造はこれまでと同じで、事件があり、犯人がいて、事件の真相があって、京極堂が解決する--。登場人物の内面は細かく描写されているし、興味深い設定も多い。ただ、これまでに比べ足りないものもあった。
明確に欠けているのはいつもの妖怪に対する解説、大幅に不足しているのは、事件のキーワードに対する薀蓄だ。これらは必ずしも必要なわけではなく、むしろ一般的には読みにくい部分だったのだが、長年のファンには「ストーリーが停止し、膨大な薀蓄を読まされる」という一種マゾヒスティックな喜びがないのは寂しい感じだ。
シリーズ物は、長く続けば中身が変化していくのは当然だと思うが、何だか薄味になってしまった感がある。別な言い方をすれば、普通になって読みやすいとも言える。しかしもう一度「姑獲鳥の夏」での「本に酔う」という感覚を味わってみたい。
さて次回作については、本の裏表紙にタイトルが載っているので、ほとんどの方がご存知だと思うが「鵺の碑」という。これが、実に10年発刊されていない。私自身も今も諦め半分に期待しているので、少し調べてみた。
公式ホームページには本人の談として、2008年9月12日に「まず、シリーズの次作に予定されております『鵺の碑』は、講談社ノベルスからではなく、他の出版社から、別な形で刊行されることになります」と、書かれている。正確な情報はこれだけで、後は憶測があふれているが、まとめてみると、次のような感じだ。
1.作品自体は既に完成している。
2.出版社との何らかのトラブルがあった。
3.原発がらみの内容だったが、東日本大震災の発生で発売延期になってしまった。
と、いう程度で、真相はわからなかった。無念。
ちなみに私は「内容に何らかの問題があったが、作者の興味が他のテーマに移ってしまい、改稿されないままズルズルと時間だけが経っている」のでは、思っているがどうだろうか。近日発売となっているらしいので、正式に完結というわけではないと思うのだが、期待して待ちたい。
(きうら)
![]() 邪魅の雫 [ 京極夏彦 ] |