- 続婦女誘拐殺人事件がテーマのサスペンス小説
- 事件が複数の視点で描かれる。非常にスリリングな展開
- 気になる点ももちろんあるが、ページをめくる手が止まらない大傑作
- おススメ度:★★★★★/li>
「なんだこれは?」と、第1部の途中で思った。「これはヤバイ」とも。100Pを超えた途端、物語が物凄いスピードで加速し始め、一部ラストで放心した。決してグロテスクではないのに「ここまで書いていいのか」と、寒気を覚えるような描写。同時に読者を飽きさせず、まるで小刻みに爆発して加速していくような場面場面の面白さはエンターテイメントとしても最大級の面白さだ。しかし、ここまでなら以前紹介した「火車」と同様だ。第2部から、作者は未知の領域に驀進し始める気がする。
一冊ずつ個別に紹介したいと思っているが、今回は全体のあらましと感想を書いてみたい。
物語は、連続婦女誘拐殺人事件が、警察・被害者・犯人の側から群像的に描かれる。しかし、群像と言ってもそれぞれのパートで普通の本一冊分位はあるので、同じ物語が複数の視点で描かれていると言ったほうがいいかもしれない。とにかく、この物量にも圧倒される。
2部では犯人の生い立ちから犯行までが描かれる。正直、読み始めてみると一部に比べ(時間軸も戻るので)もどかしさを感じた。しかし、一部で感じた「読みたい気持ち」は簡単には止まらない。そして、徐々に練り上げられていくクライマックスはやはり圧巻だ。人間の光と影が鮮やかに描かれる。読み進めるのが勿体ないくらいスリリングな「対決」シーンがある。この辺の物語の<ため>と<放出>のコントロールが見事だ。
3部は完結編とも言える内容で、普通なら2部で終わっている話がさらに一回転する。そして明かされる模倣犯の意味。それは表面的な意味合いを越えて、この小説の真のテーマを語る。3部には展開的に物足りない部分もあるが、ページを繰る手が止まらないのは同じだ。
とにかく圧倒的なエンターテイメント小説でありながら、非常に深遠なテーマに深く切り込んでいる点で稀有な作品だと思う。いわく「悪」とは何か。純粋な「人間の悪意」とは何なのか。これは現代日本を覆っている言葉にできない「不幸」と同じ源を持つものと思えてならない。
作者は、「他者とは違うと思いたい英雄願望」だと述べていましたが、ヒトラーやポルポト、ジョン・レノンを射殺した男など、確かに人類を揺るがした悪の原動力とはこんなものかも知れない。ひょっとすると、私達は人と違うところではなく、同じ所を探すべきなのかも知れないとも思う。
最初の設定は重く感じるが、その先に底の見えない広大な世界が広がっている。軽い読書には向かないが、作者の筆力に身を任せて垣間見る人間の「邪悪」と「聖なる部分」は全ての人にとって何かしらの意味を持っている思う。手放しで勧められる大傑作なので、ぜひ読んで頂きたい。
(きうら)
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