- 現代的な会談の短編集
- 人間の歪んだ悪意・鬼がテーマ
- それなりのオチ
- おススメ度:★★★☆☆
人間の持つ「悪意」とそれが生まれる原因をテーマとした、現代的な怪談ともいえる短編集。題名にある「鬼」とは人の心の中に存在する「殺意」や「憎悪」で、全部で6つの短編が収録されている。
本の紹介にもあるが、それぞれのあらましはこんな感じだ。前半3篇は、「鈴虫」表題の昆虫をキーにした男女間の愛憎劇。「ケモノ(※原題はケモノの「偏」の部分)」は刑務所で創られた椅子に掘られた文字から、ある家族の歪な秘密に迫る。祭りの夜に強姦を計画した主人公を含む仲間、20年後に主人公はもう一度、その出来事を…という「よいぎつね」。
後半3篇、「箱詰めの文字」は友人の小説の剽窃をめぐり起こる事件、「冬の鬼」表題のフレーズが作中の冒頭である一遍。大火傷を負った主人公の女性が、その恋人に行う狂った「行い」とは。ラストの「悪意の顔」は、絵の中になんでも閉じ込める能力のあるという女性に、主人公は母親の死をきっかけにいじめるようになった親友を閉じ込めるように望むようになるが…という、ちょっと不思議色の強い話。
以上、ざっとあらすじを書いてみたが、オカルト的要素は少なく、人間の歪んだ悪意が様々なテーマで表現されている。ちょっとした推理物のようになっている「ケモノ」など、テーマは同じながら、気持ちの悪いものから、ちょっと哀切に富んだものなど様々だ。どの作品にも「S」というアルファベットで表現される登場人物がいるので、ちょっとだけ夏目漱石の「こころ」っぽい。
全体的には、煽り文句にあるような「驚愕の結末」は言い過ぎだと思うが、それなりのオチが用意されているし、短編であることと、平易な文章のせいで非常に読みやすい。怖いというか後味の悪い話が多い気がするが、上記のあらすじに興味があれば読む価値はあると思う。特に表題作の元になった「冬の鬼」は、悲しくも美しく、且つ狂気を感じる作品で、中々の力作ではないかと思う。
蛇足・本の装丁は2種類あるようだが、トップに掲載した山田緑氏(ご本人のHP)の描かれた表紙の絵が非常に好み。こんな精緻な絵を描いてみたい。
(きうら)
![]() 鬼の跫音 [ 道尾秀介 ] |