3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★☆☆

玩具修理者(小林泰三/角川文庫)~あらすじとそれに関する軽いネタバレ、感想

投稿日:2017年3月4日 更新日:

  • 「何でも」修理する謎の男が「あるもの」を治す恐怖を描く
  • スプラッター的要素もあるが精神的に揺さぶられる
  • 表題作は短編、他に中編「酔歩する男」も収録
  • おススメ度:★★★☆☆

第2回日本ホラー小説大賞の短編小説部門の受賞作。物語の構造はシンプルだ。基本的に男女が会話する―シーンだけで進む。もちろん、その間に、表題となっている「玩具修理者」についての説明と謎、そして、少々グロい展開と、わりと意外なオチが待っている。勘のいい方は、オチについてはある程度、早い段階で気づくかもしれないが、中々鋭い終わり方になっている。

3行部分でも書いたが、短い話の割りに結構生々しいグロシーンがあったりする。そしてまた、ある疑問を投げかけてくるのだが、それがなかなか精神的に「クル」ものになっている。肝心な所なので、ネタバレはできないが、その手の疑問は、特に最近実感することだ。何が「そう」で何が「そうでない」のか。その部分で、不思議な揺らぎを感じることができる。

短編小説と言うことで、もう一つ中編の「酔歩する男」も収録されている。酒場で同僚と飲んでいる主人公が、ある男と「知り合い」として声を掛けられるが、主人公には覚えがない。なぜ、覚えがないのか。その理由が男から明かされていく……という筋書きだ。話の神髄は表題作と同じく、何が「そう」で何が「そうでない」のかという部分で、ジャンル分けすると分かりやすいのだが、やはりそこが要なのでここでは書けない。興味があれば、直接読まれた方がいいだろう。

その発想力と構成、独自の描写には魅かれるものは多い。ただ、同じホラー小説大賞の短編受賞作だが「ぼっけえ、きょうてえ」に比べると、もうワンパンチ欲しい気もする。あちらも最後のオチで読者を串刺しにするような短編で、より強烈に感じた。

短いお話だが、映画化もされているような作品なので、目にする機会があれば、一度読まれてはどうかと思う。

(きうら)

蛇足:作中の単語から想像するに、どうやら「クトゥルフ神話」と何かの関係があるようだが、真意は読み取れなかった。うーむ。


玩具修理者 [ 小林泰三 ]


-★★★☆☆
-, , ,

執筆者:

関連記事

本の雑誌血風録 (椎名誠/朝日文庫)

椎名誠たちの黎明期を描く 馬鹿げに満ちた壮大なプロローグ 著者が好きな方には勧めたい おススメ度:★★★☆☆ 本書は、小説家・エッセイスト・映画監督・タレント・編集者と、様々な顔を持って活躍していた3 …

タイトルに書けるほど感想に自信がない短い感想

鬼滅の刃無限列車編 TVで観ました 原作は読んでません おススメ度:★★★☆☆ うーん、この映画がファンに熱烈に受けた程度なら分かる。しかし日本映画の興行成績を塗り替えてしまったという事実を知っている …

出口のない海(横山秀夫/講談社文庫)

人間魚雷の乗組員の半生 戦争×野球という珍しい組み合わせ 娯楽作品として読めば楽しい。メッセージ性は弱い。 おススメ度:★★★☆☆ 第二次世界大戦時、人間魚雷こと特攻兵器「回天」の乗組員がいかにして自 …

邪魅の雫(京極夏彦/講談社) ~続刊「鵺の碑」はいつ出るのか&感想

毒をテーマにミステリ寄りの展開 全体的に薄味の内容で、物足りない 続編は現段階でやはり未定。詳細は下段参照 おススメ度:★★★☆☆ 2017年現在、京極夏彦のデビュー作「姑獲鳥の夏」から長編8編、短編 …

水の中の犬 (木内一裕/講談社文庫) ~全ネタバレあり

正統派ハードボイルドのようで全部ぶち壊す あらゆる悪徳要素があるが胸糞は悪くない サスペンスとしては楽しめる おススメ度:★★★☆☆ 巻末の解説を読んで、あのヤンキー漫画「BE‐BOP‐HIGHSCH …

アーカイブ