- 「何でも」修理する謎の男が「あるもの」を治す恐怖を描く
- スプラッター的要素もあるが精神的に揺さぶられる
- 表題作は短編、他に中編「酔歩する男」も収録
- おススメ度:★★★☆☆
第2回日本ホラー小説大賞の短編小説部門の受賞作。物語の構造はシンプルだ。基本的に男女が会話する―シーンだけで進む。もちろん、その間に、表題となっている「玩具修理者」についての説明と謎、そして、少々グロい展開と、わりと意外なオチが待っている。勘のいい方は、オチについてはある程度、早い段階で気づくかもしれないが、中々鋭い終わり方になっている。
3行部分でも書いたが、短い話の割りに結構生々しいグロシーンがあったりする。そしてまた、ある疑問を投げかけてくるのだが、それがなかなか精神的に「クル」ものになっている。肝心な所なので、ネタバレはできないが、その手の疑問は、特に最近実感することだ。何が「そう」で何が「そうでない」のか。その部分で、不思議な揺らぎを感じることができる。
短編小説と言うことで、もう一つ中編の「酔歩する男」も収録されている。酒場で同僚と飲んでいる主人公が、ある男と「知り合い」として声を掛けられるが、主人公には覚えがない。なぜ、覚えがないのか。その理由が男から明かされていく……という筋書きだ。話の神髄は表題作と同じく、何が「そう」で何が「そうでない」のかという部分で、ジャンル分けすると分かりやすいのだが、やはりそこが要なのでここでは書けない。興味があれば、直接読まれた方がいいだろう。
その発想力と構成、独自の描写には魅かれるものは多い。ただ、同じホラー小説大賞の短編受賞作だが「ぼっけえ、きょうてえ」に比べると、もうワンパンチ欲しい気もする。あちらも最後のオチで読者を串刺しにするような短編で、より強烈に感じた。
短いお話だが、映画化もされているような作品なので、目にする機会があれば、一度読まれてはどうかと思う。
(きうら)
蛇足:作中の単語から想像するに、どうやら「クトゥルフ神話」と何かの関係があるようだが、真意は読み取れなかった。うーむ。
![]() 玩具修理者 [ 小林泰三 ] |