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★★★☆☆

テロリストの処方(久坂部羊/集英社)~あらすじとそれに関する軽いネタバレ、感想

投稿日:2017年3月7日 更新日:

  • 「医療破綻」&「連続テロ」を巡るサスペンス
  • 医療知識は豊富。謎解きは普通のレベル。
  • 作品のテーマにあれば一読の価値あり。CTスキャンの現実にビビる
  • おススメ度:★★★☆☆

富裕層の医師を狙った連続テロ事件が発生、爆殺・斬殺・焼殺と手口を変えて3件の事件が起こり、現場に「豚ニ死ヲ」というメッセージが残されている所からストーリーは始まる。主人公は元医師で、今は医療評論家という設定の浜川浩(はまかわひろ)という名前の45歳の男。時を同じくして、狩野万佐斗(かのうまさと)という全日本医師機構の会長に就任した医師が、日本の医療の過激な改革を訴え始める……テロリストの犯人はどんな人間なのか? 真の目的は? 主人公が友人の女性ルポライターの助力を得て探り始める。そこには、主人公の過去が絡んでくる。

以上があらすじと、ネタバレのない範囲での概要だ。ジャンル的には医療をテーマにしたサスペンスという位置づけでテロの犯人探しが主なテーマになるが、それほど凝ったトリックを仕込んであるわけでもなく、あくまでも緊迫感を味わうというサスペンスの王道を狙った作品だ。

「良くも悪くもプロの作品」というのが感想で、導入からテーマ選び、時事性、ネタの開示のタイミングや読みやすい文章、全て「書き慣れた」作家のそれだ。特に変な癖もなく、残酷描写もほとんどない。逆に医師という経歴を生かして「医療破綻」の現状については、詳しく描写されている(それが本当かどうか確かめる知識は私にはないが)。
「良くも」というのは、破綻せず話がよくまとまっているということで、「悪くも」というのは、作者の狙いが見え、それほど意外性を感じない点だ。書店の店員の方に実際に聞いたところ、入荷してもすぐに出て行くらしいので、一般的に読みやすい小説なのだろう。

実は一番怖かったのは、新書版で139ページに書いてある「CTスキャン」の被ばく量についてだ。「X線写真と比べると300~600倍もの放射線を10分ほどの短時間で浴びる」と書かれていたところで、そんな怖いものとは知らなかった。私も受けたCTスキャンによる頭部の被ばく量は水晶体が50mGyで、甲状腺は1.9mGy、乳腺は0.03mGyらしく、もっとも危険な胎児への急性被ばく量のしきい値が100mGy。次の精巣で150mGy(大阪大学医学部付属病院・放射線部のHPより抜粋)、健康被害が発生する可能性があるのは1000mGy以上(文部科学省より)なので、一回のCTスキャンで健康被害が起こるとは考えにくいが、あまり気軽にやらない方がいいようだ。

怖いかどうかというと、怖くない。ほどほどに緊迫感があり、日本の医療破綻についての現状が良く分かり、その医療破綻という「現実の社会」が怖いという感じだ。世界に誇る日本の「国民皆保険制度」。この先どうなるのか、私も中年だけに少々不安を覚えたのは確かだ。

新書しか出ていないが、そういうテーマに興味があり、読みやすい小説を探している方にはオススメだ。

(きうら)


テロリストの処方 [ 久坂部 羊 ]


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