初期の作風はまさに衝動的殺人事件そのもの
間に挟まる味のあるシーンで深みを与える
戦闘の続く序盤はまさに大傑作バトル漫画
おススメ:★★★★★
何の因果か20年前を振り返る羽目に陥っており、その関係で有名な「バガボンド」の最初の方を再読してみた。何というか、滅茶苦茶な話で、ほとんど人を殺しているシーンばかり。これは怖い本として通用すると思ったので今回はその感想を少し。
(あらすじ)もはや説明の必要もないほど有名な宮本武蔵の生涯を「スラムダンク」などで(当時)最高の漫画家とされていた井上武彦が独自の解釈で漫画化したもの。第1巻は17歳の武蔵が関ヶ原の合戦で敗れて殺されかけるシーンから始まる。親友の又八と再起を誓うのだが、やがて運命は複雑に分岐していき……という長大なお話。
現在37巻まで発刊されているようだ。本棚には27巻まであるので、その辺で私は読むのを挫けたみたいだ。挫けた辺りは少々哲学的な展開になっており、娯楽を捨てて世界の真理に迫ろうとしているように見えた。エンターテイメントを期待していた読者はその辺で離れていたのではないかと思う。私もその一人で、最新刊はどうなっているのか実は知らない。
しかし、序盤はまさに人間殺害エンターテイメント。とにかく殴る、切る、殺すのオンパレード。それはもう爽快なほど殺しまくる。しかも、エロ要素も遠慮なくぶっこんで来て、とにかくこの時期の作者は、自分の中にたまっていた暴力性を楽しそうに開放している。しかし、もちろん、何の戦略もなく描いているだけでなく、間あいだに人間性を問うシーンを挟んでくるので、描写に重みがある。
この作品は歴史物としての側面も持ちながら、初期は特に、青年漫画のダイナミックな手法を用いて最大限「面白く」しようと描かれているので、異様な迫力に満ちている。何か作者を突き動かすような激しい衝動があったのだろう。その反動で哲学的な展開が強い時もあったりするが、とりあえず20巻くらいまでは大傑作「人切り」エンターテイメント。先日紹介した「無限の住人」より、はるかに一般的な切り口なので、読みやすいだろう。
古くてもいいので面白いコミックを探している方にはオススメの傑作。初版は1999年3月。あの頃特有の世紀末的やけくそ的退廃感も漂っていて懐かしくもあった。
(きうら)
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