★★★★★

桜の下には何がある? ~「桜の森の満開の下/坂口安吾」&「桜の樹の下には/梶井基次郎」

投稿日:2017年4月15日 更新日:

2編とも短くて簡単に読める。

桜には魔力のようなものがある(個人差あり)。

狂気と正気のあやうい均衡が感じられる。

おススメ度:★★★★★

「桜の森の満開の下」は、桜の魔力にあてられた山賊と、彼が奪い取った女をめぐる幻想的な物語です。女は山賊のもとにいた彼の妻たちを一人残して全て殺せと命じます。なんとも恐ろしいです。特に凄惨なのは、二人と「女中」との三人が都に上り、そこで日夜行うある遊びです。このシーンを映像化するとなかなかグロい感じですが、話全体(ラスト含めて)に漂う雰囲気が哀しげなせいか、あまり気持ち悪くは感じません。

安吾は、桜の下でのドンチャン騒ぎは江戸時代以降のもので、それ以前の人々は桜の下はおそろしくて、足早に素通りしていたと書いてます。西行も花(桜)の歌を多くよんでますが、現代人とは桜の捉え方が違っていたのでしょうか。まあ確かに人影のない桜並木に突然迷い込んだら(入る、より怖い)、その空間が異質になったように感じます。桜が多ければ多いほど圧倒されます。3月まで葉が落ちていて裸木だったのに突然薄ピンクの森になるわけだから、心が騒ぐのも何となくわかります。今はソメイヨシノが全盛なので昔とは見る光景が違うでしょうが。

「桜の樹の下には」の冒頭部分は、小説や漫画など様々なメディアで取り上げられています。久々に再読したら、〈桜の樹の下には屍体が埋まっている!〉と〈!〉マークがついているのに気が付きました。とてつもない発見をしたということなんでしょうか。〈俺〉は桜の美しさに何故不安を覚えるのか、その原因に気付いたのです。実は桜の樹の下には無数の屍体が埋まっているんじゃないか、だから美しいんだろう、と夢想した時に驚きを伴った天啓のようなものが下ったのです。

作品の最後で〈俺〉の狂気すれすれの空想が浮かんできてはじめて〈俺の心象が明確〉になる。〈今こそ俺〉はさっぱりした気持ちで〈花見の酒が呑める〉というが、この考えはかなりおそろしいのではないでしょうか。梶井の「闇の絵巻」からイメージして例えると、”谷間の闇に浮かぶ白く輝く道を、その周りが深淵と知らず、うかれて歩くようなもの”、ではないでしょうか。よく分からないかもしれませんが。人はそんな妄想にとりつかれて旨い酒が呑めるか、どうか。私(筆者のこと)は多分呑めます。

これらを読んで花見に行くとおもしろいかもしれません、おそらく。

(成城比丘太郎)

編者注)桜の下の話はよく聞くが、こうはっきり意識したことがな
かったので、新鮮だ。梶井基次郎は「檸檬」くらいしか分からない門外漢である(笑)


(楽天)


-★★★★★
-, , ,

執筆者:

関連記事

まっぷたつの子爵(カルヴィーノ/岩波文庫) ~あらましと感想、ネタバレあり

カルヴィーノ作品中屈指の読みやすさ。でもちょっと残酷。 身体が半分に引き裂かれた子爵の物語(寓話)。 老若男女すべての人向けで、感想文の対象に最適。 おススメ度:★★★★★ (あらすじ)語り手の「ぼく …

夜と霧 新版(ヴィクトール・E・フランクル (著)・ 池田香代子 (翻訳)/みすず書房) ~感想と紹介

ナチスの強制収容所に収容された心理学者の冷静な回想 読むと非常に重い現実が現れる。娯楽要素はゼロ 誰もが絶対に読むべき本だと私は思う おススメ度:★★★★★ 皆さんは、人間の「性善説」と「性悪説」とい …

ゲーム・オブ・スローンズ(原作:ジョージ・R・R・マーティン/製作総指揮 : デヴィッド・ベニオフ&D・B・ワイス)

近年稀に見る脚本の出来栄え 色んな方向に突き抜けたファンタジー 原作はともかくドラマは見事 おススメ度:★★★★★ 本ドラマは日本での知名度はその実力からしてかなり低いと思っているが、知っている人は説 …

姑獲鳥の夏(京極夏彦/講談社)

「妖怪」がテーマだが、現実感のあるホラー系ミステリ 豊富な知識量と筆力に圧倒される。少々難解な所も 記憶喪失になってもう一度ゼロから読みたい おススメ度:★★★★★ 1994年初版刊行、知名度抜群の一 …

武装島田倉庫(椎名誠/新潮社)~あらすじとそれに関する軽いネタバレ、感想

崩壊後の世界で働く男のSF小説 短編7つで一つの小説になっている とにかくアツくて独特で魅力的。大好きです! おススメ度:★★★★★(普通の人には★★★~★★★★くらい?) 個人的なことで恐縮だが、こ …

アーカイブ