★★★★☆

海外文豪のこわ~い話(仮) スペードのクイーン(プーシキン/光文社)&グランド・ブルテーシュ奇譚(バルザック/光文社)

投稿日:2017年5月3日 更新日:


  • 二編とも復讐にまつわる怖い話。
  • 現代的な話として翻案できそうな面白さ。
  • 短編で簡単に読める。
  • おススメ度:★★★★☆

『スペードのクイーン』の舞台はペテルブルグ。「若い工兵将校」のゲルマンは、勝負好きでギャンブルをやりたい気持ちを普段は抑えて、他人の勝負事を眺めるだけだった。ある日、トムスキーの祖母が若い頃、カード勝負で借金を取り返したという逸話を聞き、その秘密を知りたいと思うようになる。伯爵夫人(その祖母)は、その秘密を四人の息子にも明かさず、過去にあるひとりの若者にだけ教えていた。今後一切勝負事をしないという条件で。

ゲルマンは伯爵夫人に取り入るため、まず夫人の養女であるリザヴェータに近付く。そして、何とか伯爵夫人邸に乗り込む約束をリザヴェータと取り付けることに成功し、ある夜夫人邸に侵入し、帰宅した夫人の前に姿を現し、秘密を聞き出そうとするが…。

ゲルマンが伯爵夫人邸に忍び込んでから、夫人の前に現れるシーンは、彼と一体となった感覚で読むとハラハラする。彼が夫人と対面してから、物語は急に幻想小説にでもなったかのように不思議な出来事が起こる。ここからは、ゲルマンの身に起こる現象というより、彼の目に映る光景が歪んだ形で書かれているようです。

はたして、ゲルマンの見た夫人のあざ笑いといい、夫人のあり得ない訪れといい、彼の前に現れたのは死神かなにかだろうか。彼の呵責の念かなにかで、そのように見えたのだろうか。ラストでの彼と他の登場人物との簡単な対比がなぜかかなしい。私としてはギャンブル好きへの戒めだ。

ちなみに「光文社古典新訳文庫」版の翻訳はとても読みやすく、また本文庫に収められている「読書ガイド」には、「スペードのクイーン」の様々な解釈がまとめられていて参考になります。
『グランド・ブルテーシュ奇譚』は、最後がとても恐ろしい物語。ヴァンドームというフランスの町に滞在中の「わたし」は、廃墟と化した「グランド・ブルテーシュ館」に心ひかれ、何度も通う。そこは「時の流れという復讐の手によって取り壊されつつある」屋敷で、「ある秘密」を閉じ込めている、といった印象を彼に与える。「わたし」は好奇心で訪れていたのだが、ある日公証人に屋敷に入るのを止めてくれと言われる。そこは夫人の遺言で、50年間そのままにしておかなければならないという。

その秘密を知りたいと思った「わたし」は、宿屋の女将から夫人とその夫であるメレ氏の思い出話を聞き、そして「宿屋の女中」ロザリーからは、メレ夫婦にまつわる恐ろしい話を聞き出すことになる。
恐ろしい話を詳しく書くとネタバレになってしまうので、この後は読んでみて下さい。こちらの作品は「スペードのクイーン」と違い、現実に起こりうる事件を描いていて怖いです。秘密を持った妻を、その夫がいかに苦しめるかも怖いですが、特に夫であるメレ氏の最後に言ったセリフは、かなり恐ろしいものです。

(成城比丘太郎)

(編者注)
今見ると両方ともKindle Unlimited対応ではないか。つまり、Amazon Primeに入っていれば両方ただで読める。Amazonを上げるつもりは無いのだが、文章の価値と金子の価値をどうも間違えている節がある。いいことだ。あと私に必要なのは「趣味で読む時間」だけ。
で、時間ができて読んでみたが、どちらも甲乙つけがたい逸品。スペードのクイーンのラストは笑っていいのか、怖がっていいのか迷うところだが、一人の娘の心を弄んだ「報い」なんだろうなぁ。
「グランド・ブルテーシュ奇譚」は完璧なホラー。しかもじわじわ芯に来る。2回読むと最初の方の場面の意味も違って感じられる。これで昨夜は悪夢をたっぷり見ました。おススメです。


(楽天)

(楽天)


-★★★★☆
-, , , , ,

執筆者:

関連記事

嗤う伊右衛門 (京極夏彦/角川文庫)

有名な四谷怪談を京極夏彦風にリブート 元ネタが有名なので意外性がある設定 怖いというより非常に美しい物語 おススメ度:★★★★☆ 有名な「四谷怪談」を京極夏彦が独自の解釈を加えて、再構築した作品。映画 …

SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE(フロムソフトウェア/PS4)

ストロングな和風3Dアクション 美麗な絵、軽快な動き 社会人殺しの難易度 オススメ度:★★★☆☆ ホラーを読むと言っておきながら、ゲームのレビューになるのだが、このゲームには言いたいことがいっぱいある …

アニメに出てくる本(1)

アニメに登場する書物。 これもまた不定期更新です。 今期[2017年夏]の『NEWGAME!』に出てくる本を中心に。 オモシロ度:★★★★☆ アニメに書物が出てくると、その内容とは別の意味でうれしくな …

拝み屋郷内 花嫁の家拝み屋(郷内心瞳/MF文庫ダ・ヴィンチ)

「拝み屋」を営む著者の実話怪談集 魅力的な登場人物と秀逸なストーリー 単なる実話系会談集の枠を超えた傑作 おススメ度:★★★★☆ 憑き物落としや安全祈願などを生業とする拝み屋を営む著者が、自らの奇怪な …

フォレスト・ガンプ 一期一会 (ロバート・ゼメキス ・監督)

イノセントな男の数奇な人生 人生の残酷さと優しさと ベトナム戦争のシーンが印象的 おススメ度:★★★★☆ 「Run! Forest! Run!」と叫ぶジェニー。走り出すフォレストは、足に矯正器具を付け …

アーカイブ