3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★★☆

天使の囀り (貴志祐介・角川文庫)

投稿日:2017年5月4日 更新日:

  • 気持ち悪いとはこういうことだ
  • 貴志作品で二回読みたくないのはこれだけ
  • 意外に読みにくい文章が惜しい
  • おススメ度:★★★✩✩

(あらすじ)主人公の北島早苗は、終末期医療に携わる精神科医だ。その恋人で作家(!)の若者が新聞社が主催したアマゾン調査隊に参加してから、性格が変転し、死への恐怖を忘れたようにふるまい自殺。さらに、調査隊にいたメンバーも次々と……。いったいアマゾンで何があったのか? 「天使の囀(さえず)り」とは? ジャンル的にはバイオ・ホラー系統に位置すると思うが……。

とにかく気持ち悪いの一言に尽きる。こんなネタを考えるのもどうかと思うが、それを「作品」にしてしまった貴志祐介には脱帽する。もし、自分が読書を「清らかなもの」と信じていたら「何なんですかこれは!」と怒り狂っていたかもしれない。最悪のオープニングからどんどん悪化し、あらぬ方向へ展開する物語。そして、ラストの狂気。未来永劫、教科書に載ったりはしないでしょう。
ただ、気持ち悪いといっても様々な気持ち悪さがあるが、この本の場合、

生理的にくる

のである。「黒い家」も「クリムゾンの迷宮」もその手の描写は多々あったが、前者のメインは人間の悪意、後者のメインはゲーム的サスペンスで、今回のようにメインディッシュに「生理的嫌悪感」を持ってきていなかった。だから、貴志ファンでもこの本だけは駄目だという人も多い。

欠点としては、冒頭からメールの内容で始まったり、途中で視点が入れ替わったりし、物語にダイナミックな切れがない。作者も色々考えたのであろうが、その読みにくさも「気持ち悪さ」を助長しているようにも思える。話としては面白いので、それでも読む価値はあると思うが。
ちなみにこれに匹敵する生理的嫌悪を味わいたい奇特な方は「お初の繭」か「孤虫症」を「おススメ」しますので、ぜひどうぞ。

(きうら)


天使の囀り [ 貴志祐介 ]


-★★★★☆
-, , , ,

執筆者:

関連記事

グスコーブドリの伝記(宮沢賢治/ちくま文庫) ~あらましと感想

残酷で美しい少年の成長記 静かなラストに深い余韻 宮沢賢治史上、最大のエンターテイメント小説 おススメ度:★★★★✩ 私の母が宮沢賢治のファンで、幼いころに「銀河鉄道の夜」を読めと、私に盛んに薦めてき …

『動物奇譚集』(ディーノ・ブッツァーティ、長野徹〔訳〕/東宣出版)~「読書メモ(72)」

「読書メモ072」 動物を描いて人間のことをあぶり出す。 ユーモアやアイロニーや少しブラックなところもあります。 オススメ度:★★★★☆ 【作者について】 現代(20世紀)イタリアを代表する作家の一人 …

ぷよぷよ テトリス S ~レビューと回顧録

テトリスとぷよぷよが上手く融合 楽しいキャラクター 安定の面白さ。接待用にも最適 おススメ度:★★★★☆ ストーリーのある「ゼルダの伝説 BOW」はともかく、さすがに怖い本のサイトでパズルものゲームの …

【再読】自分の中に毒を持て(岡本太郎・青春文庫)

ある種の人間にはまるでバイブル 実際に道を踏み外し(踏み出し)た人も 全ての満足できない「今」を持つ人に おススメ度:★★★★☆ このサイトでわざわざ再読と記して同じ本を紹介するのは初めてだ。それには …

絡新婦の理 (京極夏彦/講談社文庫) ~あらすじと感想、軽いネタバレ(前編)

目潰し魔と絞殺魔の事件を軸に進むシリーズ第5弾 展開が面白く、シリーズ中でも屈指の作品 これまでの京極堂の敵としては一番の難敵 おススメ度:★★★★☆ 著者の作品は結構な数を紹介しているので、恐らく私 …

アーカイブ