- ヴァージニア・ウルフ作品の中では読みやすい。
- 若い娘が、人との交流の中で成長していく。
- <死>が作品を包み込んでいる。
- おススメ度:★★★☆☆
暗い夜の闇の中を、南米へ向けてロンドンから出港する「一隻の貨物船」。この情景だけで、暗いというか、なぜか<死>の深淵へ向けて旅立とうとする感じがする。もちろん、それは、作者のヴァージニア・ウルフが「精神の不調」を乗り越え本書を出版したこと、さらには、最終的に自殺してしまうということを知っているからなのでしょう。おそらく、それを知らなくとも、何かしらの<死>の香りを感じ取れます。読みだして10ページほどで、「不吉な前兆」、「不安」、「そして死ぬんだわ」というアンブローズ夫人のセリフ、これらが暗いおもむきを醸し出しています。
主人公は「二十四歳になる、船主の娘」レイチェル。彼女は箱入り娘のように育てられたため、「世間知らず」で、最初は乗り合わせた人達とうまくコミュニケーションがとれません。レイチェルは船の中で、そして到着した南米の町で、様々な人々との交流や読書を通して、自らの世界を広げていきます。彼女の心が変わっていくさまが、南米の自然とともにしずかに描かれています。
レイチェルに大きな影響を与えたのが、ヒューウェットとスン・ジョン・ハーストという二人の若者。特に後半はヒューウェットとの恋愛を通して、レイチェルは気持ちを大きく動かしていきます。書割のような嵐の光景にレイチェルの心が揺り動かされたかと思えば、彼女は自分の抱いている感情が何かをはっきりとは分からず、苦しんだりしますが、そのうちヒューウェットへの愛の芽生えを感じ、レイチェルとヒューウェットは共に愛の甘さや辛さを確認し、二人の「自由な対話」によって、レイチェルの「考えに深みと広がりが」もたらされていきます。最後の別れを知らずに。
ホラーもサスペンスも(通俗的な意味で)ないので、おススメ度は低いのですが、ゆっくりと進む物語には、しずかな感動があります。ヴァージニア・ウルフ入門としては読みやすいので、そういった意味では、おススメです。
(成城比丘太郎)
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