- 清涼感のある猟奇系ホラーという特異な存在
- 前半は少々、まどろっこしいところも
- 読み返すと味のある展開。文庫版は多数加筆。
- おススメ度:★★★★✩
「姑獲鳥の夏」「魍魎の匣」に次ぐ、百鬼夜行シリーズ3作目となる本作は、「魍魎の匣」直後という時系列で始まる。今回のテーマは「髑髏」。前2作全編を覆っていた猟奇趣味は若干成りを潜め、やや淡泊さを加えて展開される本シリーズは、シリーズ全体を通しても屈指の「清涼感」があるというある意味特異な位置づけだ。ページ数も「このシリーズとしては」少なめだ。
(あらすじ)二人の過去を持つ謎の女・朱美、枯れた釣り堀屋の若隠居・伊佐間、フロイトの幻影に苦しめられる降旗、神を信じられない牧師の白丘……彼らが巻き込まれていく事件に、レギュラー登場人物である京極堂、関口、木場、榎木津などが心ならずも関わっていく。その全てに「髑髏」のキーワードが登場する。果たして、事件の真相は……。
前半は新登場のキャラクターの紹介も兼ねながら物語が進行するので、興が乗って来るまでに少々忍耐が必要かもしれない。再読してみると、新キャラも十分に魅力的なのだが、関口や榎木津が出てこないことにじれったさを感じるファンもいるだろう。それに前二作と違うのは、作品全体を覆う「乾いた」空気感だ。姑獲鳥も魍魎もじっとりと湿ったイメージであるのに対し、朱美と伊佐間に代表されるように、どこか「達観した」調子で描かれる。
主要キャラクターがそろう中盤から物語は加速していくが、この盛り上がり方も微妙に冷めていて「熱狂」せずに進行していく。著者は作風の幅を広げたかったのかもしれないし、少々自らの作風に飽いたのかもしれない。どちらにしても、本作でファンは一端、ふるい落とされる。それでもあきらめずに着いて来られれば、シリーズ屈指の難易度を誇る「鉄鼠の檻」へと続くのだ。
個人的には降旗が少々うっとうしい。関口から愛嬌を抜いたようなキャラクターで、彼が煩悶する様は少々苦痛だった。とはいえ、物語の舞台装置としては必要な存在だ。作者の知識の幅が広すぎて、衒学趣味も炸裂しているのはかえって小気味いい。
そして、ラスト数行に凝縮されるこの物語の神髄は、心に響く一言になるだろう。
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