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★★★★☆

Mr.インクレディブル(ブラッド・バード [監督])

投稿日:2018年7月23日 更新日:

  • 大人のためのヒーローものアニメ
  • 毒のある内容と爽快感のある展開
  • さて、続編の内容は如何に……
  • おススメ度:★★★★☆

2018/08/01に続編の「インクレディブル・ファミリー」が公開される本作。その予告がこちら。

3Dアニメはどうも好きになれないのだが、このアニメだけは素直に面白かった。そこで、続編公開前にちょっと振り返ってみたい。

監督のブラッド・バードは「アイアン・ジャイアント(Wiki)」というアニメで初めて知った。なぜ、当時、突然観る気になったのかは思い出せないが、映画好きの友人(現在映画製作会社を立ち上げている)が「面白いアニメがある」と言っていた記憶がある。いや、ひょっとしたら別の友人かもしれないが、知る人ぞ知るアニメで、先日観なおしたが確かに他のアニメと一線を画する「何か」がある。本作「Mr.インクレディブル」もその「何か」を含んでいる。

(あらすじ/商品紹介文より引用)Mr.インクレディブルことボブ・パーと妻のヘレンは、かつて世の中の平和を乱す悪と闘い、人々を危機から救い出す大活躍をしていた。ところが、15年前のスーパー・ヒーロー制度廃止を機に、夫妻は一般市民として暮らすことを余儀なくされ、3人の子供たちヴァイオレット、ダッシュ、ジャック・ジャックと共に、「普通」の家族生活を送ろうと努力していた。再び世界を救うことを夢見続けるボブの元に、ある日、謎の手紙が届く。それは、彼と彼の愛する家族にとって、想像を絶する冒険の始まりだった…。

内容についてはご存知の方も多いと思うので、深くは触れないが、とにかく、前半のタメ部分から、後半の派手な展開まで実に用意周到に伏線が張り巡らされた活劇アニメである。かつて有名だったが落ちぶれたヒーローというのは比較的よくあるテーマだが、悲劇的になりがちなそれを家族で観られるレベルの明るい内容に置き換え、それぞれのキャラクターの見せ場も存分に発揮させる手腕は見事だ。本の紹介ではないので、こればかりは文字でお伝えするより、実際に観られた方が早いかも知れない。特に長男のダッシュがその名の通り超高速で移動するので、スピード感のある映像になっている。

しかし「明るい内容」と書いたのだが、実は、その中にさりげなく大人向けのメッセージ、誤解を恐れずに言うのならば「毒」があるのである。ディズニーアニメ好きの小学生の娘に聞いてみたところこの作品は「嫌い」だそうで、恐らく、その「毒」を鋭く見抜いて楽しめないのではないかと思っている。例えば、序盤の方で過去のヒーローが紹介されるが、飛行機に巻き込まれて死ぬのである。ディズニー・ピクサー系の映画はあまり見ないので断言はできないが、こういう風にさらっと「死」を扱っているのは珍しいと思う。

他にもヒーローという位置づけを失った主人公のボブは、保険会社で働いているのだが、その情けない働きぶりが必要以上にリアルで、何だか身につまされるのである。もっと能天気に盛り上がっていく話と思わせておいて、要所要所で展開を外してくる。そもそも悪役の屈折ぶりも何だか単純に憎めない、かといって愛せない、いうなれば「哀れ」な感じがして、ポップでスピーディな映像に反してちょっと陰惨な感じもするのである。

この辺が愛と勇気や人の善性をひたすら描こうとするディズニー的な価値観とはずれている気がする。それはいい意味で私のようなディズニーアニメを見ない人間をひきつける要因になっている。逆に言えば「アナ雪」のような映画を求めている人にとっては何だか居心地が悪いはずである。決して残酷ではないが、部分的に死や憎悪に突っ込んだ描写があるので、その辺は怖い話という視点から見ても満足できるのではないだろうか?

続編の内容を見ると、どうも本作のラスト直後から始まっているようだが、どうだろう。邦題は「ファミリー(現代は単純に2)」と入っていて、ボブが専業主夫をしている描写があって若干マイルドになったのではないかと不安なのだが、監督は同じであるし、予告で見せているような内容だけではないと信じている。ちなみに、アメリカではすでに公開され、公開3日間の興行収入が1億8000万ドルで「ファインディング・ドリー」を抜いて、アニメ映画では歴代1位と成功を収めているようだ。欧米的な感性の琴線に触れるものがあったのであろうか。時間が許せば、できるだけ劇場で観てみたい作品である。

(きうら)


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