- 綾瀬はるかの演技は良い
- キムタクはずっとキムタク
- 監督のセンスが古すぎる
- おススメ度:★★☆☆☆
映画の説明としては「木村拓哉(以下キムタク)が織田信長、綾瀬はるかが濃姫役を演じ、二人にスポットを当てて波乱万丈の生涯を描く」で十分だろう。何でも製作費は20億円だとか。洋画だと一桁違うが、それでも堂々たる大作映画として公開された。ネタバレは気にしないので、ご注意を。
序盤は悪くないと思う。キムタクは歳は取ったが(公開時点で50歳)いい意味で青臭い演技をするので若い時の方がハマっていた。濃姫にやり込められながらも、サクセスストーリーを歩み始めるというのはいい感じだった。京に攻め上る前の二人のやりとりは、若干地上波ドラマ風ではあるが、コミカル且つテンポが良かった。さあ、これから合戦だ! という次のシーンで、
私は硬直した。
戦が終わっていた。一切戦闘シーンがなく、いきなり場面がぶっ飛んだ。そして始まるキムタクと濃姫の恋愛以上、愛情未満の不毛なやり取り。それも両者のアップをやたら繰り返すので、単調な漫画を読んでいるかのような錯覚に陥る。監督の意図は分かる。
これは歴史映画でもなく、戦国スペクタクルでもなく、隠された愛の物語である、と。
綾瀬はるかはその辺を理解しているようで、非常にいい芝居をしていた。活舌もいいし、佇まいも美しい。脇役陣もいいキャストが揃っていて、宮沢氷魚、斎藤工、市川染五郎などは時代劇向きの面構えで味があった。
そんな中、数々の合戦シーンをスキップしながら、本編はファンタジーと言えるほど場面が飛躍する。最早正史を理解していても理解が追い付かない状況に陥る。信長はあっという間に本国最強の戦国武将になっている。しかし、その担保としての人間の成長劇が描けていないのである。なぜ、彼は「魔王」となったのか。それが分からない。映画的には少ないアクションシーンの中でも、比叡山の焼き討ちはそれなりに尺を割いて描かれている。ここが分岐点だと言わんばかりだ。
ところが、肝心のキムタクが成長しない。ボソボソ低い声で話す、ちょっと困った顔をする、胴間声で怒鳴る、の基本3パターンの演技を最後まで貫くので「信長のコスプレをしたキムタク感」が後半に向かって明らかになっていくという悲しい展開になる。
監督も悪い。恋愛映画というには淡白で単調すぎる。歴史を扱っているが、政治的描写はオマケ程度。VFXにお金を掛けて安土桃山城や本能寺を再現したのはいいが、まるで生かせてない。二人の出会いから別れ、そして再開を二人のアップを交互に映すという信じられないカメラワーク。効果音は変な所でかかるし、太陽の輝きや陰りで次のシーンを想像させるなんて恥ずかしくて今はどんな監督もやってない手垢のついた手法だ。あまり脈略のないアクションシーンの後の濃姫とのセックスシーンに入ると、画面が引いてゴトッという効果音がかかるのはギャグかと思った。昭和のトレンディドラマと錯覚するほどだった。
一方、信長の妄想として、濃姫の入水自殺シーン、本能寺から脱出し外国へ逃げる「if」というファンタジーシーンに膨大な労力を費やしている。その予算でせめて途中に大合戦シーンの一つでも入れて欲しかった。
場内では綾瀬はるかにやり込められるキムタク、というシーンではシニア層を中心に笑いが起こっていた。このノリで作ったら、重厚さはないがもっと受けていたのではないだろうか。
しかし最大の欠点は、この物語全体が、織田信長の生涯と重ねる必要性が全くないことだ。夫婦愛を描くなら、もっと適切な題材があっただろう。いっそ全部ファンタジーにしてしまえば良かったとも。キムタクは、キャラクター設定さえ間違えなければ、平均以上の力を発揮できる役者である。今回はそれを見誤っている。
ちなみに脚本は「リーガル・ハイ」「ALWAYS 三丁目の夕日」「どうする家康」の古沢良太。なるほど、凡庸・中庸なはずだ。
(きうら)
※リンク先のノベライズ版は未読。細かい突っ込みのオマケ。何の練習もなく、信長に貰ったリュートを流ちょうに弾きこなす濃姫はミュージシャンになるべき。