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「かけがえのなさ」について(成城比丘太郎のコラム-16)

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  • コラム(016)
  • 「かけがえのなさ」と「個別性」
  • 「絶対的な喪失」を受け入れられるのか

おススメ度:特になし

最近、野矢茂樹『そっとページをめくる』(岩波書店)を読み終えた。この本に収められているのは、著者自身が新聞に書いた書評と、読書に関することや、自著に関すること。その中で印象に残ったのは、「かけがえのなさ」と「個別性」と「一般性」に関することだった。なぜ印象に残ったのか。それは、この前起こった「京アニ放火事件」のことが頭に浮かばざるを得なかったから。野矢は本書で、「かけがえのなさ」というものが「個別性」と結びついていることを書いていて、さらに「個別性」とはレベルの違う「一般性」についても書いている。

私が本書に書かれたことから連想したのはあらまし以下のようなこと。「京アニ放火事件」をめぐる(報道とかの)アレコレを考えていて、それが「個別性」と「一般性」の両者で捉えられるのではないかということだった。ここで本音を言うと、私は未だ事件に関して実感がわかないし、犠牲者の氏名が公表されても、信じられない想いしかない。その中には、私のよく知っている人もいれば知らなかった人もいた。しかし名前自体を見ても、それらは「個別性」ではなくて「一般性」を帯びた一種の記号にしか見えない。それはなぜかというと、先にも書いたように、事件のことをまだ受け止めきれていないからで、もっというと、個人的には、京アニや(遺族)側の態勢がととのうまで(公表されるのを)待つつもりでいたから。そういう点でいうと、今回報道されたのは残念ではある。

もちろん、遺族の方々の中には、その人がいたという確かな「個別性」を表すために公表に同意した人もいるけれど、それはおそらく報道機関などからの要請があったからだろう。それがなければ積極的にその人たちのことを語っていたかどうか。私はこの記事において、これまで何気なく「個別性」という概念を用いているけれども、よく考えると、今回の事件の遺族にとっては「個別性」を超えているのではないだろうか。私みたいな単なるファンにとっては、犠牲者の方々はアニメーターなどという肩書での「個別性」が先にくるのだけども、遺族や関係者にとってはそれだけでは捉えきれないものがあるのではないだろうか。私などがいくらその人たちのことを知ったとしても、遺族側の抱いていると思われる、「かけがえのない何か」の「絶対的な喪失」には届きえないような気がする、ということを考えていた。

報道することによる、何らかの社会的な効用はあるかもしれない。しかしそれは、結局「一般性」のレベルにしかとどまっていない。私の書いた「個別性」を超えたものと、そういう「一般性」の水準とがあるとして、それらが私の中でないまぜになっているので、どうにもすっきりしないものがある。それは新聞の記事を見た時にもそうだった。

たとえば、「毎日新聞」は8/28付朝刊の一面に、京都府警が身元を公表した犠牲者の氏名を(そのまま)載せていて、次のような一文を添えている。

「毎日新聞は、事件や事故の犠牲者について実名での報道を原則としています。(以下、略)」

なるほど、というかんじである。「原則」とあるからには必然的に例外事項があるわけで、ということは今回の事件はその例外には当たらないということなのだろう。読む限りでは、例外事項が何かには触れていないので、何が例外に当たるのかは分らない。まあ要は、ニュースヴァリューと、何らかの(報道に関しての)不都合とが、今回に関しては矛盾しないからこそ、こうした報道になったのだろう。今回の事件に関しては、犯行に用いられた手段をどう考えていくかという報道はあまり見られないので、他に書くことがないのか、それとも報道機関側にもそれなりの混乱があるのか。というか、報道機関は、これからどのようなフォローをしていくつもりなのだろうか。何もないなら、京アニ側から何らかのレスポンスでもない限り、そっとしておいてはどうかと思うんだがなぁ。

今回の報道に関しては、いろんな方面からそれを糾弾する声が上がっているけれども、どちらも話がすすむと結局は、「実名報道の意義とは何か」といったような「一般性」のレベルにおちいってしまうように思うので、私としてはどちらにも与したくはない。今のところは、「個別性」を超えた「かけがえのない」何らかのものがあるとして、それは何かということをひそかに探っていきたい。それだけ。

(成城比丘太郎)


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