- 探偵・法水麟太郎が、ある意味大活躍。
- ある一族の行末をめぐる事件の数々。
- 猛スピードで展開される物語。
- おススメ度:★★★☆☆
小栗虫太郎というと、読んだことはなくとも、あまりにも有名な作品である『黒死館殺人事件(wiki)』の作者として、有名でしょう。誰が言ったか知りませんが、これは「日本三大奇書」の一冊として、日本の推理小説に多大な影響を与え続けているようです。私としては、もう二度と読みたくない小説ランキングで、上位にランクされています。いや、読みたくないというより、読みたくとももう読めない本でしょうか。読んだのは二十歳の時で、読みたい本が現在より少なかったからこそ読めたのですが、今なら、どこかに閉じ込められたりしない限り、二度と読むことはないでしょう。そう考えると何だかさみしいですが。
『黒死館殺人事件』の後は、『人外魔境』シリーズを読んで、これはまあまあ面白かったです。法水麟太郎(のりみず・りんたろう)が登場するシリーズは、『黒死館』を読んだ時にいくつか読んだだけで、この『二十世紀鉄仮面』は、久しぶりの法水との再会です。
本書の幕開けは、川崎市が夜明けとともにペストに襲われるところからはじまります。この辺りの描写は、何か冒険的な物語の幕開けを告げるようで、わくわくしました。そこへ登場するのが、私立探偵の法水麟太郎です。彼は、ある巨大な人物の策動を知り、それを探るため、さらに幽閉されている鉄仮面の人物を助け出すために動きだすのです。さて、その鉄仮面とは何者で、その人物はどのような秘密を持っているのでしょうか……
本書には、『黒死館』ほどのペダンティック(学識をひけらかすさま。衒学的とも)さはありませんが、さすがに小栗虫太郎でしょうか、固有名詞や、暗号を解く方法などには、その片鱗がうかがえます。しかし、物語の展開については、妙なところがあります。さあ、これから丁々発止の敵(といっても、法水と顔見知り)との戦いが始まり、冒険ものっぽくなってきたかと思うと、法水は何度もヘマをしたり、焦ったり、裏切られたりと、あれ、法水ってこんなにポンコツだったかと思うときがよくあります。また、敵とのやり取りが何か変に感じたりして、何か雑だなぁと思うときがあります。
そして、何といっても、この作品を貫いているテーマが、法水のラヴロマンスでしょう。なぜこれほど法水がもてるのかわからないのですが、時には艶めかしい場面になったり、時には初々しいような恋愛のシーンになったりと、まあ、内容と同様に、目まぐるしいロマンスが(なんか都合よく)展開されます。
すぐ上で、「内容と同様に、目まぐるしい」と書きましたが、この物語の展開も、ちょっと目を離したら何が起こっているのか分からなくなるほどの急展開ぶりで、これは構成が悪いのか、場面ごとに段を区切ったら分かりやすく(読みやすく)なるのになぁと思ってしまいます。ラストなどは、真相の暴露から、新しい事実の発見から、最後のシーンまで、とにかくもうやっつけで書いているのかと思うほどです。
題材自体は悪くないと思うし、人物も魅力的なので、江戸川乱歩あたりなら、もう少し分かりやすく、もう少し面白く書くだろうなぁと思うと、なんだか残念な作品です。
(成城比丘太郎)