★★★★☆ 評価不能

神聖喜劇 第一巻(大西巨人/光文社文庫)

投稿日:2018年2月22日 更新日:

  • 1942年対馬要塞に配属された一兵卒の戦い
  • とにかく学問でもって他を圧倒するという主人公東堂
  • 古今東西の哲学者・文学者の著作の的確で膨大な引用
  • おススメ度:★★★★☆(あるいは保留)

本ブログの共同執筆者で盟友の成城比丘太郎氏が4日前に「大西巨人と六十五年」の紹介で、「私は、日本の小説においては、絶対これは読まなければならないものはないと思っています。」と述べ、さらには、「夏目漱石のように国民的文学として読まれてもいいんじゃないかとひそかに思っています。」「まあ、ありていに言うと、こんなにおもしろいのに読まないのはもったいないということです。」とまで、書いて紹介してしていた本書。ここまで書かれては読まないわけにはいかないでしょう。という訳で、決して読みやすくはないという氏の注釈も突き抜けて何とか4日で読みました。

(あらすじ)巻末の紹介文が、簡潔にまとまっており、これ以上のあらすじの説明が要らないので引用すると

一九四二年一月、対馬要塞の重砲兵聯隊に補充兵役入隊兵百余名が到着した。陸軍二等兵・東堂太郎もその中の一人。「世界は真剣に生きるに値しない」と思い定める虚無主義者である。厳寒の屯営内で、内務班長・大前田軍曹らによる過酷な“新兵教育”が始まる。そして、超人的な記憶力を駆使した東堂二等兵の壮大な闘いも開始された。―不滅の文学巨篇、登場。

私は、常々教育(学問)というものは重要だと考えている。それは生きていくうえで、何らかの人間的な使命を果たし、その結果として生計を立てて生きていくためだと考えていた。この小説が書かれた当時とは全く状況が違うが、一応、大学までは卒業した訳であるから、何らかの教養はあるはずだろう。

しかし、そんな思いは本書を読めば、完膚なきまでに打ち破られる。著者の持つ古今東西を問わない膨大な哲学・文学・偉人たちの著書への知識は、作中で「中途半端な知識」と謙遜されているが、とてもとても。いち小説中にこれだけまとまって、意味のあるシーンに意味のある言葉が挿入される小説も少ない。それも海外文学などは原語で読んでいるので、本当の意味でのインテリゲンチャである。

つまり、この小説の中に登場する東堂もつ知識や知恵は「生きるための能力云々」などという七面倒なことは一切すっとばして、あからさまに「武器」なのである。ここに至り、私は学問を修めるということは、こういう事かと開眼する思いであった。孔子やニーチェの文章を暗唱するのは当然で、そこから論理的な思考パターンを構築し、それによって他社を圧倒するのである。具体的に言えば、正に暴力的機構そのものである対馬要塞において、最下層の二等兵に配属された東堂は、その知識によって、上官たちを圧倒するのである。誤解を元に書けば、彼らをなぎ倒していく。

そういうスリリングな展開をして「こんなにおもしろい」という成城氏の感想につながっているのであろうし、それは間違っていない。別に村上春樹に恨みがあるわけではないが(むしろ積極的に好き)だが、確かに、外人に「
I know Haruki Murakami, but Onishi does not know」と問われても、一笑に付せばよい。これは日本人のための、いや、日本人必読の、学問に対する「神聖」な小説なのである。

本ブログの主旨に回帰すれば、もちろんホラーという訳ではないが、殺人が合法的であった1942年の軍隊の様子はそれ自体が恐ろしいし、いわゆるマルクス主義・共産主義に傾倒した東堂が、学校から問い詰められるシーンの挿話は、これを実話と考えれば空恐ろしいものがある。発禁図書があった時代、本書自体が発禁になってもおかしくないような「反体制」思想の連発は、それはそれで相当にスリルに満ちたお話である。部落問題などにも言及されていく。

ただ、上記のような上官との丁々発止の知と論理のやり取りだけでなく、当時の軍隊の規則や漢文なども(読む易くはされているが)相当量が挿入されるので、ストーリーだけを追ってみると、第1巻だけでは、ほとんど何も起こらないに等しい。よって、この1巻を読んだからと言って「神聖喜劇」全体を語ることはもちろん不可能であるし、他のシリーズもののように類するすることも不可能だ。

この後、戦争が激化する中、東堂がどのような戦いを挑んでいくのかは、敢えて調べてはいない。これは、予備知識を持たずに、自分の知識だけで対峙すべき小説である。そこから何を感じるかは自由だし、成城氏の言うように読むのをやめても構わない。ただ、一ページ一ページが異常な熱量と知識量の高い文章で埋め尽くされていて、それに圧倒されることは間違いない。

巻末には松本清張、大岡昇平、五木寛之など錚々たるメンバーが賛辞を送っている。さもありなん。

しかし、4日ではとても精読できたとは思えない。何年もかけて最後まで読み通してみたい、そんな一冊である。また、読み進めたら感想も書いてみたい(時間が欲しい)。

(きうら)



神聖喜劇(第1巻) 長編小説 (光文社文庫) [ 大西巨人 ]

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