- いわゆる実話ベースの現代怪談
- 20編の短編集。ラスト3話は連作
- 全話ほぼパターンが一緒
- おススメ度:★★☆☆☆
こんなことを書いては著者に失礼だが、時々、気軽に「よくある怪談」を読みたくなる。技巧を凝らしたミステリーや殺人鬼やモンスターが跳梁跋扈する小説も好きなのだが、やはりそればかりだと読むのに疲れてくる。そんな理由でなんとなく検索して探してきたのが本作である。最初数行を読んでみて「これはちょっと趣味に合わない」というほどでもなかったので、全編を通して読んでみた。
内容については、もちろん脚色もあるだろうが、あとがきで「僕の実話集です」と書かれているので、ほぼ著者の体験談なのだろう。それぞれに短い表題、例えば「鬼」「ホテル別館」「通勤ルート」「しかばねからくり(1)~(3)」などタイトルがついていて、5分から10分ほどで読み終わるような分量だ。私が怪談慣れしているからかもしれないが、当初の目的通り、肩の力を抜いて読めるような内容になっている。
余りネタバレすると興が削がれるので、冒頭の「染み」というお話を例に取ってこの怪談集の特徴をお話してみたい。このエピソードは、ホテルの専門学生(そういうものがあるのを知らなかった)になった「ぼく」が、あるリゾートホテルで、実習とバイトを兼ねて1カ月間泊まり込むという導入で、だいたいのパターンに則って、6人が一つの部屋に閉じ込められて、「ぼく」は別途の上で寝ることになる。そして、そのベッドの上の階上から悲鳴らしき声を聞き、あまつさえ天井には不気味な「染み」があるというお話。その後、「ぼく」は階上がどうなっていくのかを確かめに行くが、案の定「いわく」があるという展開で落ちがついて終わる。
この怪談集のパターンは、ほぼこのプロット通り進み、最初何らかの怪異が起こる→正体を確かめに行く→何かしら不気味なものに出会う→特に謎は解明されず「幽霊」かそれに類する怪異が原因として示される、という構成になっている。好意的にとらえれば、実に素朴な現代的な怪談集で、変に「怖がらしてやろう」というような作為は感じられないが、逆に言えば、ほとんどが幽霊(っぽいなにか)が原因で主人公が受難に合う話なので、続けて読んでいると同じような読後感を感じる。つまり単調だ。
これは直接本文とは関係ないが、なぜか行間が通常の倍取られていることもあって、頻繁にページめくりを行う必要がある。別に行間を開ける必要はないと思うが、ページ数を増やすためなのかと邪推してしまった。上記では素朴と書いたが、一歩間違うとインターネット上に氾濫している「怖い話」と大差ない気もする。私のようなひねた読者ばかりではないと思うので、純粋に怖いと感じる方もいると思う。ただ、怪異の正体が(おそらく)全部同じなので、「幽霊って怖い」という方にはおススメできるが、何か小説的な驚きを期待して読む分には物足りないと思う。20編はそれなりに変化があるので、寝る前の軽い読書などにはいいのでは。ちなみにKindl Unlimitedで読めるので、もしAmazonPrime会員の方はお気軽にどうぞ(一応下にリンクも貼っておきます)。
余談だが、世の中の人は、幽霊などを本当に見たりするのだろうか? 私の場合、随分怖い話を読んだが、実際に幽霊だと思えるような存在を見たことが無い。知らずに取り憑かれている(それはそれで怖い)のかも知れないが、不気味な気配とかも感じたことが無い。単に第六感が鈍いのか、幽霊とは実はパーソナルな体験なのかその辺は判断がつかない。暗がりとかは嫌なので人並みの恐怖感はあると思うが……まあ、本当に見ていたらこんなサイトはとてもじゃないが作らないだろうという気はする。以上幽霊に関する蛇足でした。
(きうら)