- 沼で人が喰い殺された謎を追うルポライター
- ホラーでもなく、ミステリでもない、サスペンス系
- 割と明るい雰囲気の気楽な娯楽小説
- おススメ度:★★★☆☆
かなり前に「TENGU」という小説を取り上げたが、それと同じように伝説の妖怪をテーマに、現代的なシチュエーションで謎解きをするというシリーズ。今回のテーマはローマ字表記で分かりにくいが「河童」である。今回のあらすじは次の通り。
茨木県の牛久沼にスナックのオーナーが主催する「釣りの会」が開かれた。しかし、その沼で参加者の一人が「KAPPA」に喰い殺されてしまう。目撃したスナックのオーナー木下は「頭の上に皿まであって……」と、河童のような目撃証言を行う。同時期、アウトドアでフリーのルポライター有賀は、その沼で妙に釣りのうまい少年と出会う。有賀と親しくなった少年は、自分も奇妙な「生き物を見た」と、語る。この有賀の友人の老漁師、一本気の警察官が「KAPPA」の正体を追う。
前作の感想を自分で読み返してみたが、今回も良く似た感想だ。「KAPPA」の正体は、それほど苦労せずともだいたい分かるようになっている。多少知識のある人なら、たぶん冒頭の描写でだいたいの「アタリ」はついてしまうのではないかと思う。作者もその辺は分かっているようで、謎の生物の正体を無駄に引っ張ったりしない。だいたい、読者もうすうす感づいてきた頃に、ちょうどよくネタ晴らしをしてしまうので、「緊迫のサスペンス」というには物足りない。そもそも、本の裏表紙には「少年と男たちのひと夏の冒険譚」と書いてある。
読んでみると分かるが、全くその通りの内容になっている。多少凄惨なシーンも出てくるが、どちらかというと、男と少年、男と老人の会話や交流を楽しむ小説になっている。それもそれ程重たいものではなく、それぞれに矛盾や悩みを抱えながら生きているが「KAPPA」の存在によって、心が一つになる……という、どちらかというと友情物語で、結構、暗い印象のあった前作とは対照的に能天気な雰囲気が感じられる。人の恨みがどうの、現代社会の病巣がどうのというような病んだ話とは一線を画する健全さのようなものがある。
作者はたぶん個人的な趣味でかなり釣りに詳しいと思われる。釣りのシーンや道具の名前などは、リアルで興味深いものがあった。夏らしい題材であるし、軽い読書を楽しみたい方なら、ある程度おススメしたい。ただ、どんでん返しや緻密な展開などとは縁がないので、ある程度「こういうもの」と分かって読める方向け、というような内容だ。蛇足になるが、この本のメインテーマに類する事件は2017年現在の日本でも起こっているので、少々古い本ではあるが、タイムリーな話題だと無理やり言えないこともない。
(きうら)