3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★★☆

〈グレン・キャリグ号〉のボート (ウィリアム・ホープ・ホジスン/ナイトランド叢書) ~あらすじと感想、軽いネタバレ

投稿日:2017年7月15日 更新日:

  • 漂流した先に待つ魔の海域。
  • 漂着した島での魔物どもとの戦い。
  • 詳細な「海事用語」は難しいが、その分臨場感が増している。
  • おススメ度:★★★★☆

(簡単なあらすじ)<グレン・キャリグ号>の乗客である「わたし」の目線から物語られる海洋冒険譚。「南方の未知なる海域」に水没した船からボートに乗り込んだ船員たちが、怪奇な島々に漂着するのですが、ある島は奇怪な植物が繁茂していたり、ある島では謎の魔人に襲われたりします。彼らは、魔人や巨大生物との戦いを経て、無事に故郷へたどり着けるのでしょうか。

彼らが出くわす怪異は、同じくホジスン『夜の声 (Anazon)』(創元推理文庫-短編集)で出てきたものにも似ています。映画『マタンゴ』の原案になったという「夜の声」を思わせる、巨大キノコも本書に出てきます。奇妙な叫び声や、廃船の様子や、遭遇する大嵐などは、実際に船員経験のあるホジスンも経験したことでしょうか。

本書の大半は、「海藻大陸」または「海藻の島」と呼ぶ、周りを大量の海藻にとりまかれた島でのサバイバルです。ここで、魔物どもとの生死をかけた戦いが繰りひろげられます。また、新たな人々との出会いもあるのですが、彼らとの連絡方法が何とも奇抜というか大胆というか、本当にそんなことできるのかと思わせるもので、でもなぜか納得させられるものもあります。これは、登場人物(特に「わたし」)の精力のようなものがそう感じさせるのでしょうか。

一行がいったい何人グループなのか書かれていないのですが、その一行の中で、一番目立つのは何といっても「水夫長」でしょう。常に冷静なのですが、仲間の危機には人一番熱さをみせ、なおかつ勇敢で頭の回転が速く、おそろしいほどの「慧眼の持ち主」で、おそらく彼みたいなマルチなリーダーがいなければ、一行はすぐに全滅していたかもしれません。

本書は結構シンプルな怪奇冒険で、ちょっとしたワクワク感を味わうのには丁度よいかと思います。

(成城比丘太郎)



〈グレン・キャリグ号〉のボート (ナイトランド叢書) [ ウィリアム・ホープ・ホジソン ]

-★★★★☆
-, , ,

執筆者:

関連記事

哲学塾の風景(中島義道/講談社学術文庫)

実況感覚でおくる哲学書読解と、<哲学>実践。 特に何かに役立つわけではないのが、この塾のミソ。 哲学的センスのない人は、哲学書を読む必要がない。 おススメ度:★★★★☆ 哲学者中島義道が、<本当に>哲 …

春休みにオススメするホラー(2)〜「成城のコラム(97)」

「コラム097」 英国怪奇幻想作家の紹介。 イギリス怪奇幻想小説のオススメ。 オススメ度:★★★★☆ 【近況〜最近読んだ本】 ・南條竹則『怪奇三昧』(小学館) 上記の本を図書館で借りてきて読みました。 …

ピアノ・レッスン(ジェーン・カンピオン監督) ~あらましと感想

驚愕するほど美しい情景と音楽 脊髄を突き抜けるエロス 愛を問う残酷な物語 おススメ度:★★★★✩ (あらまし)舞台は19世紀半ば。主人公の未亡人エイダは娘とともに、荒ぶる海を隔てた野蛮な土地へと嫁いで …

鍵-自選短編集(筒井康隆/角川ホラー文庫)~概要と感想、軽いネタバレ

不条理を感じるSF要素もある現代(少し古いが)ホラー 筒井康隆ならではのアイロニー 正解を知っていて敢えて外すというテクニックはさすが おススメ度:★★★★☆ 筒井康隆と言えば、知らない人はいないベテ …

夢見る少年の昼と夜(福永武彦/小学館P+D BOOKS)

暗さを彫琢したような短篇集。 寂しさ、死、不安、孤独。 とにかく、ただひたすら暗い。 おススメ度:★★★★☆(暗い雰囲気が好きなら) 福永は本書に載せられた「『世界の終り』後記」において、自らの作品の …

アーカイブ