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蛇神 「蛇神」シリーズ (今邑 彩 /角川ホラー文庫)

投稿日:2019年1月25日 更新日:

  • 古事記がらみの伝奇ホラー
  • 蘊蓄は長いが古き良き日本の味わい
  • 惜しむらくはインターネットの出現
  • オススメ度:★★★☆☆

最初に結論を言うと「日本の奥地にはまだ我々の知らない村があって不可思議な因習が続いている」というのはこの手のお話にとって正に王道なのだが、今、リアリティを持った現代ホラーとしてはほぼ成立しない。インターネット+検索で何でも分かる時代、天照大神を邪神として盲信している村がある、と言っても「ググっても出てこない」で終わってしまう。一種のフェイクドキュメントにとって非常にやり辛い時代だ。なので、本作を執筆された時代(20年ほど前)に遡って読めるならそこそこ楽しめると思うが、そうでなければピンと来ないこと甚だしいだろう。そういう訳で、携帯電話が普及するかしないかの時代感覚なんてわかるか! という方にはオススメしない。もし古事記や伝説に興味があればそれでも楽しめるかも知れない。

(あらすじ・本裏より転機)
新橋の老舗蕎麦屋の若女将、倉橋日登美が直面した信じられない現実――。父と夫と長男が、住み込みの少年に惨殺されたのだ。幼い娘の春菜とふたりとり残され、茫然自失の彼女のもとへ従兄と称する神社の禰宜が現れ、信州の日の本神社へ里帰りするように勧める。従兄によると、26年前、実母は生まれたばかりの日登美を連れて、ある日、忽然と村から姿を消したのだというが……。長編ホラー。

という説明にある通り、話のスタートは平成どころか昭和である。しかも、その時代の一家惨殺・猟奇殺人という王道設定で始まるので、序盤は読みやすいと思う。十分謎めいているし、先の展開は気になる。話の流れとしては、上記の若干ネタバレし過ぎな説明後、主人公の日登美は生まれ故郷に帰り、そこである忌まわしい因習に巻き込まれていく……という感じ。作者は古事記伝説が大好きで(あろう)、今回の小説の設定を村に着くまでに、登場人物から思い切り説明させる。長い。しかし、ここを飛ばすとこの後が意味不明になるので、振り落とされずに納得して読もう。歴史に弱い私にはその真贋の程度は計りかねるが、ある程度は「あるかもしれない」というネタを引っ張って来ている気もする。まあ楽しい異説だと思っておこう。

その後は、まるで横水正史の世界の様な異様な村の様子が丹念に描かれる。しかし、話の核心に触れそうで、一番痒いところには決して手が届かないのである。目次を見れば分かるので、言ってもいいと思うので書いてみるが、この話は二部構成になっていて最初の日登美編はいわばネタ振りなので、話の解決編はその次の日美香編を待たねばならない。

リアリティに関しては、昭和52年なら何とか成立するかどうかという内容で、細部の設定には疑問も多い。まあ思い返してみると、昭和の50年代というのはタレントや有名漫画家の住所がはっきり公開されていたり、文通と称して少年雑誌に堂々と未成年の本名と住所が自主的に公開されていた時代である。そこから電話帳を調べれば電話も分かった。ただ、裏を返せば交通網はまだまだ未発達で、携帯電話も無いので、場所が分かっても連絡を取ったり、裏を取ってたどり着くのに大変な労力がいった。例えば都会に住んでいると、知らない田舎に行くには、本屋で地図や時刻表を買ったりして調べないといけないし、現地のバスが何時に発車するかなんてのも行ってみないと分からないことも多い。そんな状況なので、自分が知らない田舎というのはまあリアリティを維持できたのである。Googleマップさえあれば行かなくても景色が見られる現代とは違う(同年代の人には退屈な説明だったもしれない)。

内容に関しては、設定からして不気味さ満載で、独特の雰囲気があり嫌いではない。設定も壮大で、フィクションとして読む分には楽しいと思う。ただ、作者が推したいのはあくまでも古事記を元にした独自の歴史解釈である。その内容から、猟奇性や性的要素を幾らでも高めることができるはずだが、そこは控えめ。なので、現代ホラー的なグチャグチャどろどろ感を求めてはいけない。そこはあくまでも上品にスルーされる。

後半は話を盛り上げようとしてやや盛り過ぎな気もするが、まあこんな落とし所になるだろうという予想は早い段階でつく。オチは解決編を読まなくてもほとんど分かる。なのでミステリという視点では弱い。で、肝心の恐怖度については、怖いというより気味が悪く、不条理感が強い。名前からして、こんな村は無かろうというのが率直なところ。日本には夜這いなどの風習があったので、その辺を知っていると理解がしやすいかもしれない。ということで、人を選ぶが、なかなか力の入った作品であるとは思う。

昔話ついでに思うのは、インターネットが奪ったのは畏怖という感情ではないだろうか? 誰でも世界の秘密を知れる世界では、畏れるのは世界ではなく中途半端に真理が転写された自分自身ではないか。これはやっぱり不幸ではないか。分からない方が面白い、ということはあるし、正にこの小説こそ、そういうものだと実感した。

(きうら)


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