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鉄鼠の檻(京極夏彦/講談社) ~概要と感想、若干のネタバレ

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  • レンガ本の真骨頂。分厚い・長い・難しい。
  • ネタは面白いが、禅の講釈で詰まる。
  • セルフパロディ化しつつもある。
  • おススメ度:★★★☆☆
  • (あらすじ)新しく登場する古物商の今川を皮切りに、おなじみのメンバー(京極道、関口、榎木津、中禅寺敦子)が箱根山中の謎の禅寺で起こる連続「僧侶」殺人事件に四たび巻き込まれる。雪に閉ざされ下界から遮断されたある種特異な「閉鎖空間」で起きる不可解な事件。そこには、凡人の理解を超える殺意が満ちていた。戦後の日本を舞台にした猟奇ミステリ、果たして「檻」は破られるのか?

    とにかく分厚い。京極夏彦をして「レンガ本」「ブロック本」の作者と呼ばしめるには十分な厚さ。普通の文庫なら5冊分冊でもおかしくない(合本版の文庫は1376ページ(!))分量だ。再読した感想は、思っていたより面白い要素が多かったこと。リアルタイムで読んだ時はむしろ苦痛だったのだが……。

    記憶の中で僧侶ばかり出てくる無味乾燥なお話だと思っていたが、そうではなかった。このシリーズの伝統である猟奇性やロリータ趣味、多岐にわたる膨大な無駄知識などは、きちんと要所を押さえてファンを満足させる。それに加え、一過性の描かれ方をしていた各キャラクターが、それぞれの意志を持って俄然、楽しげに動き回る。特に京極道の妹の敦子のちょっとした仕草や温泉でうきうきする関口等、ここまでついて来たファンなら納得のサービスシーンも多い。

    一方「言葉で表現できない」という禅についての蘊蓄は、まさに言語に絶する難解さと分量で、正しく理解しようと思うと相当の労力を要する。何をして著者をここまで知識欲に駆り立てるのかは知らないが、下手な宗教の解説本より豊富な解説が載っている。ただ、それが楽しいかと言われると甚だ疑問だ。「ついて来れるか?」という著者のアイロニカルな笑いが目に浮かぶよう。このシリーズでここを乗り切れたら、後はそれほど苦労しないはず。「塗仏の宴」という最終兵器は残っているが。

    中身に触れると、謎解きはいつもの調子で「不思議な事は何も無いのだよ」式に解決に至る。榎木津が居る時点で、もはやミステリなのかどうなのかも疑わしいが、御馴染みのストーリーラインを描いて決着するのは同じ。ただ、その過程がこれまで以上に長いというだけだ。この本からこのシリーズに入門する人はいないと思うが、もし存在するなら、その個性的な話の組み立て方に仰天するはずだ。

    いただけないと思うのは、長過ぎる蘊蓄よりも、キャラクターの再利用やご都合主義が目立つ点だ。作者も半ば諦めているのか、開き直っているのか「事件に巻き込まれすぎる」主人公たちを、メタフィクション的に茶化したりしている。一作目の登場人物が重要な役割を演じたり、ことわざや名前を意識的に間違えるのは、一歩間違えれば悪い意味でマンガ的であり、重厚な作風と相反する。特に鳥口というキャラと榎木津は、どうもやり過ぎだと思うが、今更どうこういう事でもないのもまた確かだ。ご都合主義に至っては、もう「そういうもの」として楽しむ以外ない。

    個人的には関口が京極道を評して「病気です」と逆襲するシーンが白眉。このシーンだけでも、ファンなら読む価値がある。どちらにしてもファンを思い切り振るいにかけるこの「やり過ぎ感」は、他の作家では絶対に味わう事ができないので「一見さんお断り」の張り紙をした上で、お勧めしたい力作ではある。私も物書きの端くれとの自負はあるが、ここまでの密度と正確さで、情報を詰め込む事は絶対に無理だと思う。大抵の作家には敵対心を持っている私も、京極夏彦氏にだけは脱帽する。まさに桁違いだ。



    鉄鼠の檻 [ 京極夏彦 ]

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