3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★★☆

伊藤潤二自選傑作集(伊藤潤二/朝日新聞出版) 〜あらすじと感想、軽いネタバレ

投稿日:2017年6月21日 更新日:

  • 作者の「自作解説」付き9編と、書き下ろし新作1編。
  • 顔芸の要素もあるが、発想をうまく生かしていた良作もあります。
  • ホラー漫画をあまり読まない人にはちょうど良いかも。
  • おススメ度:★★★★☆

おススメしといてなんですが、私は、最近はホラー漫画は読みません。特にこれといった理由はないですが、漫画自体、中年になってからあまり読まなくなってしまったこともあります。といっても、昔は、ホラー漫画をよく読んでいたわけではありませんが。ですので、今回の紹介本も、(いいわけですが)ホラー漫画を読まない人の感想とおとりください。伊藤潤二作品に関しても、以前『うずまき』をよんだくらいで、その時の感想は、《まあまあ面白い、もし「うずまき恐怖症」なるものがあったら、怖いだろうな》くらいのものでした。では、いくつか作品の感想を書きます。

「中古レコード」……死の直後に吹き込んだとされる歌声の入ったレコード。そのメロディに魅了されたものたちの惨劇。

「寒気」……「ぼく」の隣に住む「梨奈」ちゃんの腕には、無数の穴があいていて、それは、「ぼく」の亡き祖父が、無数の穴に苦しめられて死んだものと同じものだった。その病気の原因には、あるものが関係していたのだが……。この漫画の中で、私はこれが(穴あきの描写)一番生理的にうけつけなかった。競走馬のかかる病気に「蟻洞」という、蹄に空洞が生じるものがありますが、それを思い出しました。

「ファッションモデル」……ある大学生が、たまたま見かけた雑誌に、異様な風貌のモデルをみつけ、怯える。その後、映画サークルの主演女優に応募してきた一人に、そのモデルの女性がいて……。なんだか、ホラーというより、ギャグかと思った。とくに、全員で映画の撮影地に向かう車内での一コマには、思わず噴き出した。

「首吊り気球」……ある日「和子」の友人で、アイドルの「輝美」が首つり自殺をした。やがて「和子」は彼女の死の真相に気づく。それは、人の顔を持った気球が、その顔に該当する人物を首吊りにしようと襲ってくるというものだった。自分の顔に襲われるというアイデアをうまくいかした一編。

「長い夢」……実際の睡眠時間とは違う時間を、夢の中で過ごす男の話。彼の夢の中で過ごす時間は、はじめは数日だったのが、徐々に一年、数十年、数千年と増えていき、それに応じるように、男の風体も進化したかのように、異形のものに変わっていく。やがて、男の夢中時間は永遠をむかえ……。睡眠と覚醒との懸隔を描いた、集中一の傑作。この作品は、漫画としても面白いが、文章(小説)にしても面白いのではないかと思う。

その他に、人形使いが、逆に人形に操られる様をえがいた「あやつり屋敷」。先祖の積み重なった記憶が、頭蓋を重ねるというかたちで視覚化された「ご先祖様」。油まみれの一家と、その不快感(夏の暑い日の汗がべたべたした感じ)をかいた「グリセリド」などがあります。

紹介していない作品もありますが、どれも読みやすいです。作品全体としては、グロ表現はそれほどありません。

(成城比丘太郎)



伊藤潤二自選傑作集

-★★★★☆
-, , ,

執筆者:

関連記事

私のキリスト教入門(隅谷三喜男/ 日本キリスト教団出版局)

主にキリスト教の信仰について 思っていた入門書とは違う しかし大変興味深い考察であった おススメ度:★★★★☆ 創作上の資料としてキリスト教における神、天使、悪魔などの設定を知りたいと思い本書を図書館 …

ディケンズ短篇集(ディケンズ、小池滋・石塚裕子〔訳〕/岩波文庫)

ちょっと暗めの短篇集。 ホラーや幻想小説要素も混じっています。 不安や、幻想に捉われた登場人物の心理は現代人向きかも。 おススメ度:★★★★☆ ディケンズは、19世紀イギリスの作家です。有名なので、こ …

黒い家(貴志裕介/角川ホラー文庫)

「やっぱり生きた人間が一番怖い」をたっぷり楽しめる リアルな設定と抑えた文章 スリリングな展開で抜群の没入感 おススメ度:★★★★☆(20210913も同様) 保険会社に支払査定主任として勤める主人公 …

抗生物質と人間(山本太郎/岩波新書)

抗生物質がうまれた簡単な歴史。 ヒトの身体を細菌との共生から捉える。 抗生物質の過剰使用による危険性。 おススメ度:★★★★☆ 結核をはじめとして、人間の病をなおし、生を支えてきた抗生物質ですが、最近 …

ぷよぷよ テトリス S ~レビューと回顧録

テトリスとぷよぷよが上手く融合 楽しいキャラクター 安定の面白さ。接待用にも最適 おススメ度:★★★★☆ ストーリーのある「ゼルダの伝説 BOW」はともかく、さすがに怖い本のサイトでパズルものゲームの …

アーカイブ