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★★☆☆☆

ウンディネ (竹河聖/ハルキ・ホラー文庫) ~ほぼネタバレ感想

投稿日:2018年1月29日 更新日:

  • 夜光虫(らしきもの)を海で拾って不幸に陥るカップルの話
  • ホラーはホラーだが、かなりファンタジー。タイトルに納得
  • すごく……読みやすいです
  • おススメ度:★★☆☆☆

「ああ、この話はこのまま投げるな」と、半分くらい読んで思った。作者の頭の中にある美しい夜光虫のようなモンスターのイメージが全て。突っ込みどころ満載、特別な仕掛けはなし。つまるところ、タイトル通りのファンタジー系ホラーと言える。

(あらすじ)ある満月の夜に、海辺を散策していた主人公・三田口は夜光虫に似た美しい生物(っぽい何か)を採取する。彼には夏音(かのん)という彼女がいるが、その彼女のマンションで夜光虫(らしいもの)を飼い始めた。そして、やがて彼女の身に不幸が降りかかるのだが……。

上記の他に、彼女の妹の楓雅(ふうが)、その母親、別れたクラシック好きの元夫が登場するが、ほとんどは上記の三田口の奮戦が描かれる話である。話は当然、その怪しい夜光虫風の生き物の正体とそれが巻き起こす騒動を描くことになるのだが、これがもう本当に適当である。

まずその夜光虫の描写が良く分からない。「ゲル化したオパール」だと説明されているが、そもそも生物なのかどうかも分からない。本物の夜光虫は作中でもプランクトンだと触れられているが、大きくても1-2mm程度らしいので「飼う」ことなど不可能。まずその時点で相当怪しいのだが、まるで蛍でも捕まえてきたかのように水槽で飼い始める二人。ちょっと待て。5分ほど考えたら分かると思うが、貝ぐらいの大きさで「ゲル化したオパール」で、自立して動き周り、常に光る--そんな生物はこの世に存在しない。「飼う」前にもうちょっと別の反応があるのではないかと思うが、そこはスルー。

で、案の定、彼女である夏音は失踪するという形で不幸が発生するのだが、誤解を覚悟で言えば、その後の展開が実にマイルド。人ひとり失踪しているにも関わらず、周囲は割と慌てていない。あまつさえ三田口はその原因が夜光虫っぽい生物にあることを早い段階で確信しているのである。

もっとある。

ちょっとネタバレになるが、例を書いてみよう。三田口はその生物に襲われるのだが、ライターを使って辛くも逃れる。それはいい。ただ、そのあと、そのゲル化した生物を浴室に「閉じ込める」のである。

いや、風呂の扉というのは湿気を逃すために必ず換気口があるし、相手はゲル化する水のようなモンスター(っぽい)生物?なのである。それを扉を閉めて、障害物を置いて閉じ込める? ドロボーではあるまいし、密閉されたわけではないのだから、必ずはみ出てくるだろう。せめて冷蔵庫にしよう。

閉じ込められる方も閉じ込められる方だ。自らが不定形なのにそんなもの無視して出てくればいいのに何日間も呑気に閉じ込められている。最後はガラスを扉を割ろうとするが、それならもっと早くやろうよ、などと、突っ込みどころ満載のスペクタクルシーンに、やや脱力しながらブツブツ言いながら読み進めるという感じが途中から定着する。

登場人物がみんな助かる気がまるでないし、作者も怪異の正体を説明する気もないし、もうどうにでもなれという気分になってくる。そもそも主人公と彼女の関係がはっきり描かれていないので、失踪してもしなくても架空の赤の他人であるので感情移入というものができない。終始そんな感じで、一番関係の薄い彼女の母親の分かれた旦那が最もひどい目に合うというのも良く分からない展開だ。

じゃあ、姉妹の二人はどうなったかというと、上記の通り、モンスターの行動原理及び生体が不明瞭かつ不条理なので、どうやら「取り込まれた」らしいのは分かるのだが、意志を持って主人公を追いかけてみたりして、もはや意味不明である。

ご存知とは思うがウンディネ(ウンディーネ)はギリシア神話などに起源を持つ水の精霊でゲームなどにもよく登場している。タイトルがそうなので、たぶん夜光虫=ウンディネなのだろうが、ありていに言えば、それ以上の設定は「ない」。

美しくオパール色に光る謎の生命体(ウンディネ)が、全く何の脈絡も登場して、偶然居合わせたカップルとその家族に襲い掛かった。

で、全て説明できる内容である。これ以上突っ込んではいけない。意味を問うてもいけない。そういう美しいモンスターを愛でるというのが正しい読み方というか、著者の望んだ読まれ方のような気がする。

と思って作者を調べてみるとやはりファンタジー色の濃い作品を得意とされているようで納得だ。これは現代を舞台にした変形ファンタジー小説である。物語としては起承転結の最初の二つしかないので、過剰な期待は禁物。ただし、改行やセリフが多く、展開も予想通りで登場人物も少ないので、異常に読みやすい小説だ。私は怪異を中途半端に説明するような失敗作より、こういう投げっぱなし系の話の方が好きだ。ただ、個人的に好きというだけでおススメはしない。

(きうら)


-★★☆☆☆
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