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最近読んだ本【2019年7月】~読書メモ(48)

投稿日:2019年7月29日 更新日:

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【7月に読んだ本】

・オルダス・ハクスレー『モナリザの微笑』(行方昭夫〔訳〕、講談社文芸文庫)
〔「ハクスレー傑作選」というもので、五篇の短篇が収められている。長篇とは違う味わいで、ハクスレーってこんなものも書いてたんだなと、けっこう面白く読めた。内容とかは、以下にて軽く触れます。

3人の女性と恋愛するハットン氏が転落する次第を、滑稽にミステリとして描いた「モナリザの微笑」

語り手の人物が出会った、世に知られることなく生涯を閉じたイタリアの天才少年のことを、美しい風景描写とともに哀惜をこめて描いた「天才児」

イタリア旅行中の「ぼく」が、かぶっていたメキシコ帽のせいで画家に間違われてからのアレコレを、著者のイタリアへの愛と偏見をまじえて描いた「大きなメキシコ帽」

吃音のピーターが、二人の女性を半ばストーキングして彼女らとの出会いを空想しつつ、実際の彼女らとやり取りや、その後の彼の滑稽さや現実的なオチを愛情込めて描いた「半休日」

先ごろ亡くなったチョードロンという人物のことを、チョードロンがいかに世間で言われる人物とは違うかを、語り手が友人から聞くという話の「チョードロン」

個人的には、風刺や滑稽さはさることながら、著者の風景描写が非常に良かった。〕

・ローベルト・ゼーターラー『ある一生』(浅井晶子〔訳〕、新潮クレスト・ブックス)
〔一生のほぼ大半をアルプスの村で過ごしたエッガーという男の「ある一生」を描いただけの話。それだけの筋であるのだけど、それがなんとも心にしみる。
20世紀の初め頃、アルプスの村に連れてこられたエッガーは、「ただの生き物」として養父からこき使われる。そして折檻されたせいで足が不自由になる。長じるにつれて、たくましくなったエッガーは、養父のもとを離れ独りで生きていくことになる。物語は基本、エッガーの山での仕事や結婚のことや戦争(従軍と抑留)や老年期のことが綴られるのみ。派手なことは起こらない、というか起こっていないかのように語られる。彼に訪れる「死」をもたらす「氷の女」を迎えるまでのほんの小さな一生を語るのみ。
「進歩という名の巨大な機械の、ちっぽけではあっても決して重要性がないわけではない小さな歯車だと見なしていた」エッガー。たしかに20世紀という時代とともに描かれる彼自身の姿は「ちっぽけ」ではあるものの、逆に20世紀というものと彼とを対比することで、彼自身の一生を著者が克明に描き出していることが分かる。何か特別なことが起こるわけではない、ということではなくて、すべてが何も特別ではない、というように思われてくる。たとえば、何も特別なことを為し得なかったけど地道に生きてきた、と思う人こそ、本書を読むと静かな感動があるかもしれない(とはいえ、これを書く著者自身はそういう人物ではないと思うが)。
なんというか、エッガーという男の一生を読むことは、ロウソクが尽きるまでの時間を、その何もなさ加減として味わうような感じ。ちょっと憂鬱な時や、何も考えたくない時に読むと、なんともほっとする。〕


・河合雅司『未来の地図帳』(講談社現代新書)
〔『未来の年表』に続く、未来の日本に起こるであろう、予想上の地図帳。本書ではまず、人口動態に関するデータをもとに、近未来日本(2045年くらいまで)の人口の変遷を見ていく。こういったデータをもとにした人口の増減は、それなりの精度をもった予想だろうから、本書に書かれた各地域で「起こること」には、まあまあの説得力がある。ここで書かれたことは、大まかに言うと、東京(圏)一極集中が続くことと、人口減がすすんで「限界自治体」があらわれるというところまでいろいろあるけど、結局、少子高齢化はどの地域でもますます進むということ。
そういった(データに拠る)予想をもとに、「人口減少日本」への対策を、遅きに失した感もある今ではあるけども、進めていかねばならないというのが本書の基調。そのためにとるべき施策を著者はいろいろと提唱する。まず人口減少に関する問題を日本国中で考えるようにし、「戦略的に縮む」ことを提示する。そして、何らかの「出会い」の場を各地にもうけることで、にぎわいと「豊かさ」をそれなりに持続させた「王国」なるものを概念化する。
この「戦略的に縮む」とは、まあ人口が減っていくことを念頭にした社会基盤をつくりだすことにつながるのだろう。ほんで、問題は「豊かさ」なのだけども、これは都会のタワマンに住む人から人口の少ない地域で自足的に暮らす人まで多様なんだけども、どうすればええんやろ。そもそも日本に、モノ以外で「豊かさ」を測るという何らかの国民的コンセンサスを生み出せるのだろうか。それから「王国」の字を見た時に、アニメ『サクラクエスト』(2017年本放送)を思い出した。このアニメでは「国王」を中心にした地方(の商店街やらの)再生計画が若者によって考えられたけれども、最終的には何かが得られたとは思えない内容だった。アニメーション制作会社がある富山県はそれほど深刻な状況ではなかったのだろうか。
まあ、都市圏に住むと、人口減少や高齢化などはなかなか可視化されないかもしれない。そのせいでもしかしたら「人口減少」が目につかないきらいもないではない。そのことをあらわすと思われるテレビ番組がある。『ポツンと一軒家』という番組。衛星写真から見た一軒家を探して誰が住んでいるかを尋ねるという内容で、その様子をおそらく空調の整った(東京の)スタジオで眼鏡をかけた司会者が頬杖をつきながら見て「ほお、へぇー」と言うのを視聴者が観させられる番組。これは『未来の地図帳』的にはなかなか罪深いのではないかと思われる。私はこの番組を月に一回くらい観るのだけども、訪れる場所がだいたい地元民でも行かないような辺境で、いわば超限界集落といっていいでしょう。そこに住んでいるのは、見た目は元気そうな人たちで、たまに定住していない人もいるので、ここからはあまり「人口減少(や高齢化)」を感じない。それに加えて、おそらく下調べをしているだろうから暗いイメージは出さないようにしている。つまるところ、この番組から視聴者である私が受け取るものは、「人口減少(や高齢化)」はもちろんあるけど、どちらかというと「こんなところに住んでる人がいるのか」という感心と驚き。この番組では見事に、「人口減少(や高齢化)」がもつ暗いイメージを消している。この見事さを、著者のいう対策にいかせないものだろうか、と思う今日この頃。〕

(成城比丘太郎)




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