- 自らの血統にまつわるホラー
- 古典的手法と聞きなれた展開
- ちょっとトレンドを取り入れてみたり
- おすすめ度:★☆☆☆☆
映画「呪怨」の監督で有名な清水崇の新作映画の小説版。これだけで、私たちのようなホラー近辺をさ迷っている人々は、だいたいどんな内容か想像がついてしまうだろう。もちろん、今回もそれを裏切ってくることはない。正直、映画化されているかどうか、また、映画そのものには興味がないので、あくまで小説版だけの感想を述べたい。
(紹介文/Amazonより抜粋)
あなたは日本最恐の心霊スポット〝犬鳴村〟を知っていますか?(中略)
午前二時、YouTuberがトンネルに入ったことから始まった不可解な事件。
全ての謎は[犬鳴トンネル]にあり。常に恐怖体験で名が上がるほどの最凶スポットでもある「犬鳴村」(中略)決して触れてはいけない〝犬鳴村〟が、ホラー映画の第一人者・清水崇によって禁断の映画化!本書は、監督の清水崇・脚本家の保坂大輔と共に、恐怖実話の第一人者で九州在住の久田樹生によって書かれた、もう一つの『犬鳴村』である。
長いので、短くしたが、要は監督の協力を得て著者が話を膨らませて書いた小説であるということである。
最初にYouTuber云々の下りが出てくるのが、今風といえば今風だが、心霊スポットのトンネルを見に行くとか、「何か新しいホラー映画を作ろう」という意思がほとんど感じられず、職業ホラー小説家・映画監督の感覚で「今回はこのネタにきーめた」程度のノリしか感じられない。それをわかって読んで文句を書いている私もどうかと思うが、躊躇いもなくそんな小説(映画)を作ってしまうところが問題だろう。惰性や技術で作劇する人をプロと呼ぶなら、これはケーベツに値する。
小説版は映画版にない設定を盛り込んでいると書いているが、明治だか大正だか、そんな時代だから「日本国憲法が通じず」などといういい加減なエスケープを入れて、明らかな大量殺人を行う日本政府。そんなわけないだろうというのが正直な感想。というか、そういうことをする必要がない。ダム建設による村の水没問題に触れているが、こんなものは金の問題であり、わざわざそこに住んでいた人たちを「犬と交わった穢れた部落」などという差別的虐待を加える必要はないのだ。
そういう意味で、ホラーのネタになるからと、日本の伝統的な差別制度を深く調べもせずにネタにしようとする姿勢は「ホラー作家だから」で許されるものではないだろう。いや、ネタにするなら真正面から向きあい、もっと悲哀を描くべきである。スナック感覚で描く「差別」という要素は、不見識であり、物語に深みを与えるどころか浅はかさのみが強調されている。
それはいいとしても、全体の流れも、不自然この上なく、要は犬鳴村を虐待した側の子孫と犬鳴村の子孫が交わって生まれた子供が被る不運、というネタなのだが、わかりにくいし、不自然この上ない。結論ありきの内容で白けてしまった。
いろいろ今風の設定は盛り込んでいるが、リアルとフィクションの境目があいまいで、例えば、死体を遺族に見せるとき「足に別の死体が縋り付いたまま」見せたりするだろうか。どこの世界の警察だ。考えられない。小学生が読むならともかく、大人向けでこの設定は厳しい。
文章自体は読みやすいし、Jホラーと言われればJホラーだが、残虐さも中途半端で、結局グダグダのまま終わる。巻末の映画監督との対談も、なんだかむなしい。そんな自慢気にかたられてもな、というのが正直な感想である。
と、いうわけで、停滞するJホラー界に今後革命は起こるのだろうか? などと心配したりする。結論というか前提だが「映画の内容を元にしたホラー小説に名作なし」。
さて、次は何を読みましょうかね。
(きうら)