評価不能

あの世の話 (佐藤愛子・江原啓之/文春文庫)

投稿日:2019年5月8日 更新日:

  • あの世についての作家と霊能者の対談
  • 何か述べてるようで何も現していない
  • 何が目的か分からない不思議な内容だ
  • オススメ度:よほどの好事家に

直木賞や菊池寛賞を受賞した作家である佐藤愛子が、霊能者である江原啓之と霊の存在について対談している。聞き手である佐藤愛子は美輪明宏から霊が憑いてると言われ、何か色々あって霊の存続を信じるようになったという。一方、霊能者の江原はその仕組みを今風(と言っても1998年発刊)の言葉で語っている。その概略を列記すると、

・人間には背後霊がついている。
・背後霊には役割分担がある。
・背後霊も人間で分からないことは更に上位の背後霊に聞く。
・それらを超越した霊もいる。
・生まれ変わりは修行のやり直しで、霊界からしたら生まれるのはむしろ不幸なこと。
・記憶を残さないのは霊のグループの愛情(記憶が残っている赤ん坊を愛せるか?という理屈)
・死んだら欲望がなくなる
・神も霊体の一種。
・命は神の領域で弄ってはならない。

荒っぽくまとめるとこんな感じになるが、とにかく、文章が頭に入って来ないので、合ってる自信がない。何しろこの霊能者は「霊能者は万能である」という一般的な前提を崩し、霊能者は間違う、失敗するというスタンスなので、とにかく断言しない。なので、何が言いたいのかよくわからない。私の場合……とエクスキューズするので、佐藤愛子がこれほど心酔しているのかも分からない。

ただ、それを承知で読んだので別に不満はない。とは言え、不信心者をハッとさせるような言葉を期待したのだが、非常に一般的な道徳論と中学生が考えたような背後霊の設定がミックスされているだけで、知的な発見は無かった。

私が読んだ限り、懐疑的な読者が一番突っ込みやすい物理現象を極力避けて語っているのが微笑ましかった。ただ、時々、天井に手の形のシミが増えていたとか、ポルターガイストは自然霊が起こすとか、そのエネルギーはエクトプラズムだとか口を滑らしていて、その辺が洗練されて無いなという感じ。霊能者は魔法使いではないとも述べられている。つまり無から有は生み出せない的な例えと解釈した。とはいえ予知は出来るとはっきり書いている。過去が見えたりもする。いつも不思議なのは悪い予知だと分かっているのに、霊能者はなぜその結果を変えようという気にならないのか? しかし予知した内容を上手く除くと予知が当たらないことになり、結果予知で無くなる、という矛盾があるので仕方ないのかも知れない。予知は避けられないこそ予知なのだろう。有名な預言者の不幸というやつだ(悪い予言は当たっても外れても嫌がられる)。

私は不信心ものではあるが、宗教も霊界も否定はしない。というか、それが「適正価格」で「その人を救う力がある」のであれば、むしろ積極的に推奨したい。世の中の真実が何であれ、この世の苦しみを和らげてくれるのであれば、或いはよりよく生きる指針になるのなら何かを信じるべきだ。全てを信じないというのは結局、虚無的な結論や刹那的な人生論になることが多く、不幸なんじゃ無いかなと思う。なので、仏壇に手を合わせて拝むのも、非科学的と切って捨てる方が非科学的だとは思う。

とはいえ、だ。霊が予知も含め、精神に影響を与えることは納得しても、それが純粋な物理現象となると話は別だ。ここに矛盾がある。

・霊は何らかのエネルギーを使役できる。
・しかし霊はより高次の存在なので普通の人間にはそれは感知できない。

エネルギーを使えるということは、この世の物理法則に従っているということである。ということは、無から有は生じないわけで、その力の源を知りたいのだが、それが人間には見えないのでは、おかしくはないか。見えない、感じないものがどうして、現実に干渉できようか。しかしこれを形あるものにすると、エクトプラズムに再現可能な条件を揃えないといけない。本書では霊能者も人間なので失敗するというが、それで乗り切れるのか? この本だけで判断は出来ないが、どうもその辺がこの霊能者は甘いところがある。どうしても転生や除霊に踏み込んでしまうと、何らかの理屈がいるので説明してしまっているが、そこは単に「見える」「祓える」だけでいいのである。

いや、もしかしてこの本は信者向けのファングッズなのではなかろうか。なぜなら、やたらと活字が大きい割にひどく薄いのである。読むのに小一時間もかからない。中身も無いに等しい。この二人の個人的なファン以外、読む価値は全くない。ひどい話だが。

しかし、人生の真理を一時間もかからない活字に求めるのは無理がある。多くの先人が果てしない苦悩の上に気づいた哲学が「背後霊も分からないことがあると背後霊の背後霊に聞く」というのではいかにも軽い。まあしかし、それでも別に悪いことは何も言ってないし、本人を前にして何かきっかけがあれば、信じてしまうかも知れない。所詮は関係性の問題である。要するに客観的な事実よりもその人が信じたい事実を提供できれば、職業としての霊能者は成立するのだ。そもそもこんなところで、とやかく言っても無意味な話なのである。

昔、職場の先輩に「なぜ、人は勉強するのか?」と聞いたら「他人に騙されないため」と答えられて鼻白んだ記憶がある。その時は実に味気ない見方だと思ったが、今は納得している。要は何を信じるか、焦らずじっくり吟味した方がいいと、私はこの本を読んで深く呻吟するのであった……。

(きうら)


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